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【全文】全ては母親の一言で始まった:家入一真氏・BASE鶴岡裕太氏が語る大ヒットサービス開発秘話

椿龍之介

2014/09/30(最終更新日:2014/09/30)


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 無料でネットショップを開設することができるサービスの「BASE」。それまでネットショップとは無縁だった主婦層がBASEを利用してハンドメイドの商品を売り出すなど、個人向けのショップのプラットフォームとしてその規模を拡大しています。

 ここでは、そのBASEを運営するBASE株式会社の代表取締役である鶴岡裕太氏と、鶴岡氏を学生時代からメンターとして支え続ける家入一真氏が、BASEの元になったアイデアや、BASEが成功すると思った理由を語った、ドリコムのインキュベーションプログラム「 Startup Boarding gate」のキックオフイベントでのパネルディスカッションを書き起こします。

スピーカー

家入一真氏/連続起業家・モノづくり集団Liverty 代表
鶴岡裕太氏/BASE株式会社 代表取締役

(モデレーター)
内藤裕紀氏/株式会社ドリコム 代表取締役社長

見出し一覧

・サービスを使う「特定の個人」が思い浮かべばサービスは成功する
・チャンスを得るためには諦めないで食らいつくことが重要
・巨大な象をひっくり返すためには「出来ない」思考を止めろ
・ワンピースのような物語と損得を超えた関係が仲間を作る

サービスを使う「特定の個人」が思い浮かべばサービスは成功する

内藤:
今回は家入さんと鶴岡さん、お二人に話を伺っていきたいと思うんですが、鶴岡さんが大学生の時、家入さんがメンターという形で「BASE」を立ち上げたと聞いております。起業を志す人にとっては、何をして、何を支援してもらうと大きなサービスを作っていけるかという参考になるんじゃないかなと思い、今回は話を伺いたいと思います。まずは、BASEではどのようにしてサービスを立ちあげたのか聞いてもいいですか?

鶴岡:
もともとBASEを作る前に、クラウドファウンディングサイトの「CAMPFIRE」を運営している「ハイパーインターネッツ」という会社で僕がインターンをしていて、家入さんと関わったのがきっかけですね。大学3年生の時にエンジニアとしてインターンに応募して、家入さんといろいろサービスを作りました。ハイパーインターネッツを辞めた後、ある日突然BASEのアイデアがひらめいて、家入さんに提案したところ、「良さそうだから作って」と言われました。それで、「Liverty」というクリエイター集団でサービスを開発してローンチしたところ、1日でユーザーが数千人も集まったので翌月には法人化をして独立しました。

内藤:
家入さんから見て、最初に出会ったとき、鶴岡社長はどのようなスキルを持っていて、何が出来る人だったんですか?

家入:
鶴岡くんはほとんどのことができなくて、本当にプログラミング以外も何も出来なかった。コミュニケーション能力はやたら高くて、僕のプロジェクトの手伝いを含めて様々なことをしてくれましたが、基本的に何もできなかったんです。

様々なサービスを手がけていく中で、急に「BASEっていうものをやりたい」と鶴岡くんは言い出しました。そのきっかけとなったのが、母親の一言だったんです。鶴岡くんの母親は、大分でブティックをやっていて、「ネットショップをやりたい」「これからはネットショップの時代だ」と言い出したそうなんです。「私もネットでものが売りたいからどうにかしてよ。IT詳しいんでしょう?」という依頼を鶴岡くんが受けたんですね。

BASEを作るという選択肢ではなく、Yahoo!ショッピングとか、楽天市場にサイトを代わりに開設する方法もあったはずなんですよ。でも、彼は同じような思いを抱えた人が日本中にいるんじゃないかと考えた。結果、BASEが出来て、すごい勢いでショップ数を伸ばしています。地方にあるような個人の商店とか、アクセサリーを趣味で作ってる人とかがBASEにショップを開設しています。今までネットでものを売ることを考えていなかった人たちが、BASEを使ってものを売っているんです。お母さんのためにやったことが広がって、結果として日本中に広がっている。僕がよく思うのは、使ってくれるであろう人に個人の顔を思い浮かべられないサービスはうまくいかないということです。それが、鶴岡くんの場合はお母さんだった。

チャンスを得るためには諦めないで食らいつくことが重要

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内藤:
BASEの初期段階では、家入さんにどれだけ相談したんですか?口出しされた内容も含めて伺いたいです。

鶴岡:
ハイパーインターネッツに半年ぐらい在籍していて、辞めてからも1年ぐらい家入さんと一緒にBASEを含めた様々なサービスを作っていました。その1年間は、365日ほとんど一緒にいました。

ほぼ家入さんと一緒にいて、家入さんはマンションの前のイタリア料理店に一日中いるんですけど、そこに毎朝僕が出向く生活をしていました。

もはや付き合っている状態にかなり近かったと思います。基本的に家入さんは、ちゃらんぽらんしてて参考になることはあまり言わないのですが、月に一回ぐらいいいことを言うんです。でも、その「月に一度しか言わないいいこと」が、本当に40日分ぐらいの価値を生み出します。その「いいこと」を聞くために、30日間を捧げている感覚でした。

BASE以外にも日常的に一緒にサービスを作っていたので、その中でいろいろ教えてもらいながら、最終的にBASEも作っている感じでした。BASEについても、基本的には「こういうのやりたいんですよ」と言いながら1日かけてコードを書いて、プロトタイプを見せて、「いいんじゃない」みたいな感じでアドバイスを受けていました。大体の場合、出来る寸前ぐらいまでは勝手に作って、ギリギリのタイミングでアドバイスをもらっていました。フィードバックをもらって、修正していく感じです。

家入:
ここで大事なのが、鶴岡くんと時間を調整して会っていたわけではないということです。ただ僕がいつもいるから来るんですよね。僕も自分の作業があるのですが、とにかく鶴岡くんは執拗に絡みついてくるわけですよ。僕に会いにくる学生さんがたまにいるんですが、一回会えなかっただけで、「もう家入さんは捕まらないから諦めます」と言って去っていきます。諦めてしまう学生が多いんですよね。でも、鶴岡くんは食らいつくわけですよ。チャンスは手を伸ばし続けない限り手に入らない。たまたま最初にチャンスを捕まえる人もいれば、手を伸ばし続けても、チャンスが一生得られない人もいるでしょう。でも、手を伸ばし続けるしかないんですよね。

巨大な象をひっくり返すためには「出来ない」思考を止めろ

内藤:
ちょっと視点を変えて、BASEのサービスをローンチした後に行けそうだなって思ったタイミング、つまりは「これは、多少リスクを負ってもサービスを作った方がいいな」という感覚はどこら辺にありましたか?

家入:
僕は出す前から、最初からイケるって思っていました。先ほど話しましたが、イメージが最初からあるわけですから。鶴岡くんのお母さんは絶対使いますし、喜ぶでしょう。同じような人がいっぱいいるんじゃないかと思っていました。「ロリポップ!」というサービスを「paperboy&co.」という会社を作った時に立ち上げたんですけど、そのときもBASEと同じで、自分が使いたいレンタルサーバがなかったから自分で作ったんです。たぶんレンタルサーバに困っている人間が日本中にいるだろうという仮説を立てて。だから、本当に身近な人を想像する、もしくは自分の関心からサービスを立ち上げるということはすごく大事で、容易に想像できるんです。だからBASEに関しても、「これ、イケるな」って最初から思っていました。

鶴岡:
社内の話をすると、サービスを出す前から出資をいただける企業は決まっていて、その上でリリースがあったので、サービスとして伸びるだろうという予想はしていましたが、確信とまではいきませんでした。実際にサービスをリリースしたときに、ユーザー数が伸びたので、そこぐらいから「イケる」と確信が持てました。ユーザーの声はリリースしてみないと聞くことができないじゃないですか。ちゃんとサービスを出して、実際に使ってもらうべき人にサービスが届いて、ユーザーからの声をいただく中で実感が湧いてきました。家入さんのアドバイスも嬉しいですが、やっぱりユーザーからいただく声が一番嬉しいですし、ユーザーからの声が聞こえ始めたときは、サービスをやっていけるのかなと感じました。

内藤:
一般的にインターネットの知識がないVCや金融関係の人からすると、多分BASEを見せても、「楽天があるじゃないか」と指摘するのではないでしょうか。BASEのような無料のECサイトを作成できるサイトも既存でありました。スキルが未熟な学生がECサイトのサービスを立ちあげても、「成功するはずがない」と誰も却下してしまうな状況でしたし、サービス自体はありがちなアイディアだったと思うんです。

それでも、世間一般の人が「うまくいかない」と思っていることほどうまくいくと私は思うので、自信を持ってグッとサービスを推していけるかどうかが重要だと思います。世間一般にいるよくわかってない人達の指摘と自分たちがイケると思っている部分、この差が新しい発明を生み出す差だと思います。もう少しこの差について一歩踏み込みたいのですが、どうでしょうか。「イメージが沸いたからイケる」っていうのは、具体的にはどういう感覚ですか?

家入:
確かに、「楽天があるじゃないか」とか「Yahoo!ショッピングが無料化するから難しいだろう」とか、既存の大手サイトが対抗策を練ってきたら負けてしまうという指摘は多くあるんですよね。でも、そんなわけがありません。例えば、楽天が単純に無料化なんて出来る訳がないんです。それだけ規模が大きくなってしまっていますし、ターゲットがBASEと違うというのもあります。

楽天は、例えるなら巨大な象だと言えるでしょう。象から見れば、僕らのようなサービスは本当に蟻みたいなものですよ。本当に力がない。だけど、象が気づかないうちに、せっせと足元に穴を掘って、象がひっくり返るぐらいの穴を作ってしまえば、転ばせることだって出来ると思うんですよね。

内藤:
だから、象が転ぶ穴の場所を見つけなくちゃいけない。だいたいの人達は出来ない理由を探すので、それでは象が転ぶ穴は見つかりません。

家入:
ほとんどの人は、すぐに出来ない理由を探してしまうんです。二言目には「出来ない」と言ってしまうこともある。多分、「出来ない」と言う癖がついてしまっている人はたくさんいるんですが、その「出来ない」という発想をまず止めた方がいいですよね。

内藤:
それではBASEを運営している鶴岡くんはどう考えているんですか?もう一歩踏み込んで、実際にBASEが成功するのかどうか感じているところはありますか?

鶴岡:
BASEの場合は本当に売り上げが1円も無いんです。未だに売り上げがないんですけど、「カートを作るのに1000円かかる」とか「手数料で10%取られる」というのが当たり前だった市場の中で、BASEは唯一手数料がないサービスだというのが強みとしてあります。

それは多分、家入さんと松山太河さん(エンジェル投資家)とか、僕たちが起業するときから周りに投資家の人がいたからだと思うんです。投資家の人って、ちょっとクレイジーじゃないですか。僕がBASEのスキームを説明している時に、「売り上げはないです、ただユーザーが増えればいいと思います」って言ったんです。そうしたら投資家の方が「すごいね」って言うんですよね。普通の観点じゃない。

BASEは今もほぼ売り上げがないですし、大変な額の赤字を出していますが、投資家の方は会社の価値が上がっていく中で未来をちゃんと見ている。僕は一歩二歩ぐらい先のことしか見ることができなくて、単純に「ユーザーが喜んでくれればいいでしょ」ぐらいの想像しか出来ません。でも、さらに先を読んでくれる人が、「そのまま続けても問題ないよ」と言ってくれますし、「どうやって利益出すの」という質問に対しても、「目先の売上とかいらないでしょ。AmazonとかGoogleとか見てみなよ」という風に言ってくれるんです。

サービスの今後について広い視点で見ることができる人が近くにいることが比較的大きくて、投資家の方に影響を受けて、未だにマネタイズをしていないですが、ガンガン資金を調達して、人材面についても協力してもらいながら会社を大きくしていこうと考えています。「この人の言うことなら聞いてもいいな」と思える人が近くにいることも、サービスが成功すると確信を持てた大きな要素だったなと思います。

ワンピースのような物語と損得を超えた関係が仲間を作る

内藤:
ちょうど今、仲間の話になったので、会社の仲間についてお伺いします。いわゆる「社長」というと、自分の魅力で人を惹きつけて、人前に出て行くイメージがあると思います。2人とも最初の印象は人付き合いが苦手そうで、いわゆる「社長」のイメージとは違ったんです。会社の最初の段階でどうやって仲間を見つけたのかという話や、仲間を見つける中でどういう人を仲間に入れるのがいいのか、どういう人は入れてはいけないのか教えて欲しいです。BASEではジョインする仲間をどういう風に選んだのでしょうか?。

鶴岡:
最初は仲間を集める力がありませんでした。僕の場合、最初は思いっきり「家入パワー」を使うっていうことを意識していました。裏技のようなものですね。僕は学生だったので、家入さんの周りに集まった人を仲介してもらってからBASEに来てもらうっていう卑怯な作戦を取っていました。

内藤:
最初のチームではどれぐらいの人数が家入さん経由だったのですか?

鶴岡:
リリースの時点では7、8人ぐらいいて、優秀なデザイナーやエンジニアの方も最初は手伝ってくれました。CTOとしてえふしんさん(「モバツイ」の開発者として知られる藤川真一氏)もいますし、業界で有名な方々がメンターでいます。ちょっと前まで大学生だった自分に、最初から人を惹きつけるようなパワーは備わっていないじゃないですか。そういうときは、周りの力を露骨に、何の躊躇もなく利用するようにしていました。

内藤:
家入さんは、逆にどういう人を鶴岡くんのところに送り込んでいったんですか?

家入:
送り込んだというか、勝手に取られちゃったっていう感じがありますね。仲間に関して言うと、よくする話で「ワンピース」ってあるじゃないですか。ワンピースって、結局ルフィーの大きな物語があって、そこにジョインする仲間たちの物語があるんです。目的はそれぞれ個別にあったりするわけですよね。でも、ルフィーの船に乗ることで、ルフィーの夢を叶えてあげたいし、自分たちの夢も叶えられそうだという物語がある。物語を語るというのはすごく大事だと思います。僕、ワンピースって読んだことないんですけど。

あとは損得を超えて付き合うのがすごく大事で、損得で何事も考える人って最終的になんとなく損してるんですよ。損得を超えて、「一緒に何が出来るか」というのがすごい大事で、Livertyに関しては給料は払ってないです。組織でWebサービスをバンバン出して作っていくのですが、サービスとして収益が上がればその分はLivertyにいる全員に分配しますよと言っています。その代わり固定給とか、つながりについては「そういう組織じゃないんで」ということで持っていない。僕も自費でサーバを借りて、集まってくる子たちに色々教えてあげていますし、Livertyのメンバーも給料がない中で開発しています。そのような損得を超えたところって、結構つながりが強固になっていく部分があるんじゃないかなと考えています。大事なのはあんまり損得勘定で考えないということですかね。

Startup Boarding Gateとは

 「Startup Boarding Gate」とは、起業を目指す学生が持つ「ものづくりへの想い」をカタチにするプログラムです。Startup Boarding Gateの目的は、「これまでの世の中にない価値を若者の手で生み出す」こと。ドリコムではStartup Boarding Gateを通じてイノヴェイションを起こす起業家の育成・支援を行っています。


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