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【全文】メタップスCEO佐藤航陽氏講演:最も起業に失敗しやすいのは「何でもこなせる執着のない人」

椿龍之介

2014/09/26(最終更新日:2014/09/26)


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 導入アプリが10億DL超えのAndroidアプリ向け収益化プラットフォームや、決済手数料が0%のオンライン決済サービスなどを提供するメタップスのCEOを務める佐藤航陽氏。ここでは「 Startup Boarding Gate」キックオフイベントの中で佐藤航陽氏が学生に向け語った、自身の起業までの経緯、起業後の成長や苦労話を中心に、起業をしていく中で必要なマインドセットについて書き起こします。

スピーカー

佐藤航陽氏/株式会社メタップス 代表取締役社長

見出し一覧

・大学に行く資金もない中、起業を決意して成功するまでの歩み
・「できない」と認識していてもいずれは「できる」に変えられる
・「こだわりや執着」が最終的な起業の成否を左右する
・日本独有の「協調性」とサイエンス寄りの考えが起業家には必要

大学に行く資金もない中、起業を決意して成功するまでの歩み

 皆さんこんにちは。佐藤航陽と申します。今日は3点、話していきたいと思います。1つ目に私自身の起業前の個人的な経緯、2つ目は最速で成長するためにすべきこと、最後は夢やビジョンは最初から必要かどうかについて話します。2つ目と3つ目に関しては、私自身が会社を作る前に疑問に思っていて、個人的に聞いてみたいと思っていた話をしようかなと思います。

 個人的な起業の経緯について、まず話していきます。私は、大学入学時に全財産が150万円しかありませんでした。ここから大学の授業料と生活費を出すと考えると、大学2年までしか在学ができないということが、入学した瞬間からわかっていたんですね。この問題をどうしようかなということ、そして将来について大学入学時から考える必要があったので、もうすでに就活生とほぼ同じ境遇にありました。最初に私が考えたのは、2年以内に司法試験をパスすれば、大学を卒業しなくてもいいのではないかということです。しかしこれは短絡的な考えでした。当時の司法試験はすごく難しくて、合格率が3%しかない試験を受けて合格を目指すというのが一般的でした。司法試験に向けて3か月間勉強して、これは無理だと途中で考え直しました。更に言うと、法科大学院の卒業までには約1500万円も費用が必要で、お金について疑問を持っていた私は、お金がないとなれない職業はどうなのかと考えるようになりました。

 もともと私は高校時代からビジネスをやっていて、そのお金で大学に入って生活もしていたので、起業はストレスなく受け入れることができました。法人格を持っているのか、それとも個人でビジネスをやるのかという違いを感じたぐらいでした。

 当時は、まだスマートフォンがなくて、パソコンを持ってる人もとても少ない時代でした。私自身もパソコンに触ったのは起業を決意してからで、プログラミングが出来る友人にパソコンを選んでもらうところからスタートしました。そのため、プログラミングとかWebデザインに関しては、起業しながら覚えました。実際に事業を開始して、顧客から受注をもらってから、プログラミングとかWebデザインを覚えていったということになります。受注したときには何もできないんです。でも、「出来ます、大丈夫です」と言って帰ってくる。契約書をもらって帰ったら本屋に行って学習を始めるという日々を送っていました。

 当時、私は20歳でした。そこから3年間、どぶ板の営業から経営、そして組織を作るような下積みの期間を過ごしました。正直な話を言うと、福島の田舎から出てきたこともあり、東京に友達はいませんでした。結構浮いてたので、東京でも一緒に会社を始めるような友達は出来ませんでした。なので、起業当初から、自分より10個以上も歳上の人を雇って、組織を作らないといけない。これには結構ストレスを感じ、やっぱり自分みたいな若者が中年の人たちに対して、「こうしろ」「ああしろ」と言うのはなかなか難しいことだと感じました。でも、これが今の経営にも生きています。

 試行錯誤を繰り返していく内に、2010年に事業が黒字化して、売上的に数億円、利益的には数千万円ぐらい出ていたので、ちょっと視野を広げようと思い立ち、シンガポールやニューヨーク、あとはシリコンバレーなどの都市を見て回り、大量の人に会いました。このことがかなり大きな転換点になりまして、自分が何をしたくてどのような社会を作りたいかということが以前の考えと変わってきました。

 そのため、2007年から2009年に関しては、事業を全部売却して資金を作り、シンガポールにある法人に全額投資しました。当時の社員は、「なんでそんなことをするんだ。社長はおかしくなったんじゃないか」と言っていましたが、私は明確にゴールや目標がわかっていたので、あまり迷いはありませんでした。

 そして、2011年から2013年にかけてはスマートフォンに事業を絞って、グローバル展開を加速してきたというのが、今までの7年間の経緯です。

「できない」と認識していてもいずれは「できる」に変えられる

 自分が成長した時期と停滞していた時期を考えてみると、最も成長した時期は、自分が出来ないことに挑戦していた時期です。出来ないことは、起業のスタートであったり、スマートフォン事業への参入だったり、グローバル展開のことです。こうしたものは全部、「自分にはできそうにない」と当時思っていました。

 一方で、自分が停滞していた時期は、客観的に見ると一番事業がうまく行っていた時期です。ルーティンをこなしていくことで利益が出て、自分で経営をしなくても、オペレーションだけで会社が回っているという状況になっていて、収益も十分にある状態でした。若くても大きな会社を経営できると思っていたのですが、今振り返ると井の中の蛙でした。この時はビジネスが全然面白くなくて、私自身の成長は止まってるなと感じました。脳みそがうまく機能していない日々が続きました。

 私が思っているのは、人間の認識は全然あてにならないということです。例えば、現状を認識して、「このままいくとこういうスキルが身に付く」と山のてっぺんのほうを見ながら、限界がてっぺんにあると人間は錯覚するんですが、時間が経過すると人間の認識は変わるんですよね。今の認識から一年後の認識は当然変わるので、一年後には今の時点で、「出来たらいいな」と思っていたことは余裕でできるようになっていて、自分が出来ないと思っていた領域に関しても、出来るようになっています。だから、将来の認識はアップデートされるということを考慮に入れた上で、今すべきことを決めなければなりません。

 そう考えると、できないだろうと思っているラインは自分が目指すべき本当の限界であって、できるだろうと感じていることは、一年後には余裕を持ってできることなので、「できること」を目標に設定してしまうと、人生はなかなか面白くならない状況になってしまうでしょう。

 つまり、現在自分が出来そうなことの中で本当にできないことはないんです。本当に出来ないことというのは、自分が想像もできないことだと言えるでしょう。逆に言うと、やろうと考えていることや面白いんじゃないかと感じている時点で、全てのことは実現できます。例えば私はクローン人間のビジネスをしようとは思わないです。これは多分できないことなんです。ただこれが、投資家だったり、イーロン・マスク(電気自動車の開発や宇宙開発に取り組む実業家)だったら、もしかしたら出来るかもしれない。これは認識の差なんですよ。出来るのか出来ないのかについてはあまり考える必要はなくて、思い浮かんでいることというのは、まずやるべきだと思います。

 あと、人間というのは、必要性に迫られるとすごく成長します。難しい課題に頭をひねって工夫するから脳みそが進化するのであって、簡単で自分ができそうなことを繰り返していくと、脳みそが腐っていきます。私はよくこれを「脳みそがさびる」と表現するんですけど、年齢とは関係なく、一見出来なさそうなことをやっている人は、ものすごく頭の回転が速い。一方で、自分が出来そうなことを繰り返していると、たとえ若くても脳みそがさびているのがわかります。なので、私自身も脳みそが極力さびないように、自分が出来なさそうなことを繰り返すようにしています。周囲には、「困難そうに見えますが大丈夫ですか?」と言われるんですけども、まだ周囲に「大丈夫ですか?」と言われているうちは自分が新しいことをやりたいと考えています。逆に、周りから認められて、「素晴らしいですね」と言われるようになったら、逆に危機感を持たなければならないと決めています。

「こだわりや執着」が最終的な起業の成否を左右する

 起業する前に経営者の方に聞きたかったのは、「夢やビジョンは本当に必要なのか」ということでした。当時、何回か経営者の方に尋ねたのですが、「必要だよ」という話しかしてもらえませんでした。ただ、私は当時、明確なビジョンやミッションを持っていなかったのです。どちらかと言うと、生きることに必死でした。毎日、どうやって生きてくかに必死だったので、夢について考える余裕がなかったですね。でも、最終的にはスキル、そして夢やビジョン、ミッションを持てるかどうかが起業の成否に関わると思います。

 なぜ、夢やビジョンが大事なのかというと、こだわりや執着できることを見つけることがすごく重要だからです。自分が今まで努力していて、周りからも「お前、なんでそんなことやってんだ」と言われても、「俺はこれがやりたいんだ」というふうに言えるのかが重要になります。自分がやりたい理由をどんどん深堀りしていくと、自分のことがわかってきます。執着には損得を超える力があるんです。例えば、ペンのキャップがどうしても赤色じゃないといけないというこだわりを持つ人がいるとしたら、みんな「赤色にしてくれ」と言うと思うんです。ペンのキャップが赤色なのかどうかは、皆さんにとってどうでもいいことでしょう。でも、こだわりがある人にとってはキャップが赤色である理由があって、どうしてもキャップは赤色じゃないといけないという人がいるかもしれない。こだわりがある人がいる場合には、それは赤でいいんじゃないかと思いますよね。こだわりや執着を持つものでも、周りの人はそこまで執着していないので、「そこまで言うんだったら協力してあげるよ」とか「それでいいんじゃないの?」と言ってくれる。逆に言えば、こだわりや執着を持っていると、自分の意思というのは通しやすいんです。儲かるかどうか、人に認められるかどうかとは関係なく、こだわりは人やお金を惹き付けます。

 最終的に事業がスケールするかに関しては、お金をどれくらい持っているのかが関係します。私の同世代でも40人ぐらい起業仲間がいましたが、今も起業家として活動している人は4名ぐらいしかいません。彼らも初期の段階では、ミッションやビジョンを持っていなかったのですが、3年ぐらい経った段階で自分が何をしたいのかを考えたからこそ、会社が今でも残ってるんだろうと考えています。

 テクニックやノウハウは、他人から借りてくることができます。プログラミングや営業、プレゼンのスキルがたとえあっても、上には上がいるでしょう。経営者自身が得意なことと会社の成長はあまり関係がなく、むしろこだわりや執着をどこまで持てるのか、それが最終的な経営の規模になってくるのかもしれません。

 突き詰めていくと、夢やビジョンというのは、結局は執着の進化系でしかありません。何かに傷付けられたり、コンプレックスを持っていても、「俺はどうしてもやりたい」と思っている人達が、夢やビジョン、使命を持って、世の中を変えていくんです。なので、とことん自分が執着するものを突き詰めていくと、課題が社会全体に広がっていき、最終的に夢やビジョンと繋がるので、最初から夢やビジョンを持つ必要はないというのが私の結論です。

 他社がどのようなビジョンを掲げているのか、夢やミッションを持ってるかというのはあまり気にせず、まずは自分の中のこだわりや執着、そしてコンプレックスや過去の傷を探ってみましょう。あとは探ったものをとことん突き詰めていき、ビジョンやミッションに出来れば、それでOKです。私が考える「起業に向かない人」は、何でも器用にこなして、何に対しても執着が持てず、コンプレックスもない人達のことです。一方で、コミュニケーションが下手でプログラミングが出来なくても、何かに執着できる人は、私は必ず成功できると思っています。

 突き詰めていくと、こういった成長や執着は掛け算のようになっていて、最終的に全ての成長や執着は一つになっていきます。まずは、出来る限り早く、自分に出来ないことに挑戦をして工夫をすること。そのなかで、失敗して挫折して、さらには傷ついて視野を広げることが起業に結びつきます。

 成長するプロセスの中で、自分が何者なのか考え、何に執着を持ってるかということを気にすること、常に忘れないことが重要です。最終的に自分が何者であるのかということと執着がくっついていくと、会社をドライブさせていく原動力になります。最初のうちはあまり難しいことを考えずに、自分のこだわりと自分にできないことを意識してやっていけばいいと思います。

 ありがとうございました。

(以下、質疑応答)

Q:
佐藤さんが1番執着を持ったと感じた時はいつでしょうか?

佐藤:
私はお金に対して執着しています。例えば、東南アジアにある貧しい家庭の子どもが、ハーバード大学に行く確率はほとんどありません。一方で、アメリカの裕福な子どもは、高校時代・大学時代からいろいろな機会に触れているので、かなりの確率で起業家として成功します。たとえ起業に失敗したとしても、大企業に就職できて安泰だと考えると、人間は生まれた瞬間から、家の環境によって失敗と成功が決定されてしまうのではないかと疑問を持ったことが一番強いですね。私自身も貧しい環境で育ったので、そもそもお金はなぜ存在するのかと考えることもありました。お金よりももっといい手段はないのかと疑問に思ったことが、今の事業にも生きてます。

Q:
起業した場合、夢やビジョンに共感して人が集まると思います。もし、自分の執着が人に共感されないようなものだった場合はどうしたらいいのでしょうか?

佐藤:
執着が共感されないことは十分あり得ますよね。執着が時代とマッチした場合、巨大な企業や国を作ることができるでしょう。しかし、自分の執着が時代のニーズに合わず、周りから共感されなくても、それはそれでOKだと言いきれるものを探した方がいいと思います。

日本独有の「協調性」とサイエンス寄りの考えが起業家には必要

Q:
世界から見た、現在の日本人が持つ「強み」にはどういうものがあると思いますか?

佐藤:
先週、中国に行く機会があったんですが、中国は人がすごく多いので、80人ぐらいが1つのクラスに所属しています。幼稚園でも、飴玉は人数分用意されていないので、手を挙げて主張して自分から取りに行かないといけない。中国の教育の仕方では、競争や自分が生き残ることが一番重要とされます。一方、日本は資源がいっぱいあって、全員分の飴がきちんと用意されているので、お互いの協調性は強みになり得るかもしれません。丁寧さや高いクオリティを求めるところは、世界的に見ても日本は独特で強みでもありますし、一方で弱みでもあります。いかに協調性や細やかさを生かせるかが重要になるでしょう。

Q:
起業されてから今までの一番の失敗談を教えて下さい。

佐藤:
私は今も失敗しまくっています。私は、世の中で一番失敗した人間になりたいなと思っています。その中でも一番キツかった時期は2011年ぐらいです。その頃はちょうどフィーチャーフォンからスマートフォンに移行するタイミングでした。当時の日本ではまだガラケーが優勢の時代でしたが、世界的に見るとスマートフォンがシェアを獲得しており、日本とはギャップがあったんです。スマートフォンのビジネスをやろうと思ったとき、当時はまだ日本内のシェアは数10%しかないデバイスでした。シェアがほとんどないデバイスを担いでビジネスをしていくことになりました。スマートフォンが世界の中心になるという話をしても、当然誰も信用しないわけで、「ほら吹きじゃないか」「詐欺の片棒を担がされるんじゃないか」と疑われることもありました。あとは投資家にプレゼンしても、「何言ってるんだ、お前」と言われ、最終的にはソーシャルゲームを作ろうという話になりました。私は否定されるたびに繰り返し説明しました。普通、資金の融資は3か月や半年で決着がつくのですが、その時期は1年半かかることもありました。その時期はすごくつらかったですし、あとは何よりも、社員からも不信感を持たれることが一番きつかったですね。周りの人たちからはどう言われてもあまり気にならないのですが、自分の仲間である社員が、「本当に社長が言ってることは正しいのか?間違ってるんじゃないか?」という風に疑問を思い始めていると気付きました。でも今考えてみると、みんなが「スマートフォンは普及しない」と思ってくれたからこそ、自分達でチャンスを掴めたんです。なので、教訓としては、自分たちのやっていることが周りから首を傾げられるようだったら、チャンスが十分あるということでしょうか。一方で、「これをやりたい」と話をして周りから「いいね」と言われたら、ちょっとこれはやめようと、社内では話しています。

Q:
もし日本のスタートアップからGoogleのような大企業が出てくるとしたら、必要なものと足りないものは何でしょうか?。

佐藤:
シリコンバレーが強くて、日本やアジアの企業が世界で勝てない理由は、たくさんあります。まずファウンダーが違うことが大きな理由でしょうか。シリコンバレーでは、ファウンダーがビジネスを専門にしている人ではないです。日本では、これが儲かりそうで次はこの波が来そうだということで経営の舵を切るじゃないですか。でも、シリコンバレーのファウンダーたち、特にものすごく大きい企業を短期間で作った人は、ビジネスの考え方が科学者に似ています。コンピューターや社会はこういうものだから、数千年単位で考えていくと、世の中はこう変わっていくという結論ありきでビジネスをしている人が多いです。シリコンバレーの起業家はビジネスをしたいのではなくて、発明をしたい、何かを作りたいと考えているので、実は仕方なくビジネスをしているということもあります。本当はビジネスが好きじゃなくて、自分の好きなものや、やりたいことをとことんやっていたいんだけど、お金が必要だから仕方なくビジネスをやっているんです。サイエンス寄りの起業家は、圧倒的にアジアでは少ない存在です。一方、シリコンバレーは、サイエンス寄りの起業家が多くいて、資金の提供やマネジメントをビジネスのスペシャリストが行うなど、役割分担が出来ています。アジアだと、社長がテクノロジーから経営まですべて見なければならないのですが、シリコンバレーでは役割分担が出来てるということが理由として挙げられるでしょう。

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