1. 【全文】「発明家を生み出すサイクルを作る」:ドリコム・内藤裕紀氏が掲げる壮大なミッション

【全文】「発明家を生み出すサイクルを作る」:ドリコム・内藤裕紀氏が掲げる壮大なミッション

 「インターネットで期待を超える未来を創るものづくり企業」として、遊びながら英語の学習をすることができる知育アプリの「えいぽんたん!」の開発を行い、新しい価値を人々に提供するドリコム。「ドリコムが目指す、『新たな価値を生み出す発明家を輩出するシステム』を作りたい」とドリコムの内藤裕紀社長は語ります。

 ここでは、ドリコムの内藤裕紀社長が学生向けのインキュベーションプログラム「Startup Boarding Gate」のキックオフイベントで語った講演内容を書き起こします。

スピーカー

内藤裕紀氏/株式会社ドリコム代表取締役社長

見出し一覧

・完璧なビジネスプランを考えるも、「顧客ゼロ」から始まった起業
・「10円のモノを1000円で売れ!」商いで学んだビジネスの本質
・VCに断られ続け、手元の資金でなんとか会社を立ち上げる
・「発明家を生み出すサイクルを作る」:内藤氏が掲げる壮大な目標
・スマホの普及がもたらした「リアルタイム性」と「リアルな場所」
・「何をシェアするのか」ではなく「何が余っているのか」を考えよ

完璧なビジネスプランを考えるも「顧客ゼロ」から始まった起業

 みなさん、はじめまして。内藤です。私は大学生の時に起業し、会社を立ちあげました。今回は、大学生時代を含めた起業を決意するまでの話と、今回、「Startup Boarding Gate」をなぜ行うのかということについて話していきたいと思います。

 起業家として有名になると、「なぜ起業したのか?」という話をよく聞かれます。私は幼少期から、発明家になりたいと思っていました。そして、発明家にはどのようになればいいのか考えるところから、起業したいという思いが始まりました。実際に発明家になるために、大学を選ぶときもノーベル賞の受賞者が多いからという理由で京都大学を選びました。しかし、残念ながら起業しようという志をもった学生はほぼいなく、大学1年生の時から大学に行くのを止め、バイトでお金を貯め始めました。大学1年生の終わりに、バイトで貯めたお金と奨学金を元手にして事業を始めたのが僕の起業の原点です。

 大学1年生の終わりごろに、「Windows95」がすごい勢いで普及し始めました。ちょうど多くのビジネスマンがパソコンを触り始めた時期だったんですね。当時塾の講師をやっていた兼ね合いもあり、パソコンに関する知識を教わりたい人が多いのではないかと考え、パソコンを教える家庭教師の派遣を始めようと考えました。先生となる人をインターネット上でたくさん集めて、A4のビラを京都にある家のポストにどんどん入れました。3ヶ月間、毎日京都中のあらゆる家にポストインを行って、秘書代行サービスにかかってくる電話を待ちました。しかし、かかってくる電話は母親がたまによこす連絡ぐらいで、まさに「顧客ゼロ」という結果になってしまいました。当時、自分の中では「絶対にうまく行く」と考えていたビジネスプランであるにも関わらず、一歩目から全てのことが予定通りにいかないという失敗からスタートしました。

「10円のモノを1000円で売れ!」商いで学んだビジネスの本質

 その後は方針転換をして、約2年間に渡りインターネットビジネスではなくて、もっと起業らしい「商い」を学ぼうと思いました。当時はインターンシップの制度がなかったので、いわゆるベンチャー企業がインターンを募集して、なんとなく起業の仕方や企業の有り様が分かるという状況が無かったんです。そのため、「アントレ」という起業を志すビジネスマン向けの雑誌に「起業をしたいので、教えてくれる人を探したい」と広告を出しました。しかし、出した広告で連絡を取ってくるのはベンチャーとは程遠い中小企業の方ばかりです。当時の私は「ベンチャー」がどういうものなのかもわかっていなかったので、「何でもやります」というような感じで丁稚奉公として働き始めました。

 働いた中小企業の中の一社の話ですが、東南アジアからシルバーのアクセサリーを輸入してきて、屋台の模擬店や雑貨店に卸す仕事をしていました。その企業の社長に初めて会った時に、「次の日曜日に指定した場所に来い」と言われて行ったら、「ここでアクセサリーを1日10万円売ったら、次の仕事と面倒を見てやろう」と言われました。原価が数十円のアクセサリーを、どうやって数百倍の価値を付けて売ろうかと考えるところから最初の商いが始まりました。

 様々な人の仕事を手伝って行く中で、だんだんお金の流れや世の中の経済の仕組みを学ぶことができました。バイトをしてたとしても、それは自分の時間の対価としてお金をもらっていて、ビジネスの仕組み自体の中に入っているわけではありません。「どうやってビジネスの仕組み自体が回ってるんだろう」というのを、商いをしながら学んでいるうちに22歳になっていました。

VCに断られ続け、手元の資金でなんとか会社を立ち上げる

 今回の「Startup Boarding Gate」を始める大きな一つのきっかけでもあるのですが、22歳の時に学生向けのビジネスプランコンテストがありまして、賞金が100万円もらえると聞いて挑戦してみました。賞金の100万円を元手に事業を始めようと考え、実際に優勝した賞金を元手に事業を始めたのが、僕の起業の原体験としてあります。そこで、賞金が貰える起業コンテストを作れば、起業を目指す人がもっと生まれてくるんだろうと考え、それが今回の「Startup Boarding Gate」のきっかけです。

 ビジコンの優勝賞金である100万円を使って、再度ビジネスをやろうと決意しました。一緒に起業する仲間を集めて会社を作ろうということで、今度はビラを各ポストではなく大学のキャンパス内でひたすら配りまくりました。授業の試験前に教室に行って、机に接着剤でビラを貼り付け、大学の職員から抗議の電話がかかってきて怒られるという経験を日々繰り返しながら、ビラを配って仲間を集めました。そのうち仲間が集まって来て、会社が出来ました。

 この時のオフィスは住居も兼ねていて、家賃が8万円ぐらいの5LDKで、築40年のアパートでした。決してきれいなところからベンチャー企業はスタートするわけじゃないという話がよくありますが、私たちも決して恵まれたとはいえない環境の中で会社を始めたのです。

 仲間も集まり会社も出来たので、お金を集めようと考え、東京にあるベンチャーキャピタルに売り込みに回りました。スタートアップというと、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家のような人から資金を提供してもらうという話が今はありますが、その時言われたのが、ちょうどインターネットバブルが崩壊した翌年だったこともあり、まずIT企業には投資しないと断られました。他にも、「学生だから」、「会社として売上がないから」と投資を断られ続け、結局手元にある資金だけで会社がスタートしました。

 結果として、手元の資金を使いながら会社を大きくして4年が経過したときには、会社は上場するまでに成長しました。起業自体は学生でもできますし、お金もある必要はありません。ただ、起業するきっかけを作ることが大事だと思ってるので、「Startup Boarding Gate」を始めました。

「発明家を生み出すサイクルを作る」:内藤氏の持つ壮大な目標

 自分の経験から考えると、まず経験を積んで、その後資金を得て、最終的に仲間を募って会社が出来たというところが、起業が成功した理由だと考えています。経験と資金、そして仲間を今回の「Startup Boarding Gate」を通して、うまく提供したいです。経験面では、インターンの機会を作り、仲間という面は、定期的にイベントに集まる人を増やす。そしてイベントの参加者を増やし、リクルーティングできるプールをどんどん作っていくような形で、サイクルを円滑に回すことができればいいと思っています。

 発明が生まれ続ける会社にしたいという思いを持っているので、何か1つのことを重視するというよりは、常に新しいものが生まれ続けることを重要視しています。3年前に病気で死にかけたときに、自分だけが発明について考えていても発明が生まれ続ける会社にはならないと思い、どうしたら発明が生まれ続けるサイクルとエコシステムが作れるのかを考え始めるようになりました。

 去年、実験として春入社向けの学生に対しイベントを行いました。新卒採用の枠に子会社を作る枠を設け、選考の通過者は入社日から新しい子会社の社長や役員をやる枠を作り、子会社を任せました。新入社員のうち2名が子会社立ちあげ枠で入り、入社した瞬間に子会社に出向になり、社長と役員になりました。会社の立ちあげ経験がなくても十分会社は経営できるという仮説と、スマートフォン向けのサービスが増えてきている中で、毎日スマホに触っている「デジタルネイティブ」が新規のサービスを作ったほうが、開発や発明が早いのではないかという仮説を立てて実験は始まりました。資金が尽きてしまう、もしくは100万DLを達成するアプリが出来ない場合、子会社を潰してしまうというわかりやすいノルマを設けました。

 最初のアプリは、8万DLぐらいでそこそこのヒットになり、また2本目のアプリが3ヶ月で400万DLを突破して、サービスとしてもグンと立ち上がっていきました。もしかすると失敗してしまうのではないかという不安の中で、新入社員の自信を深めたのがこのサービスです。ちなみにそのサービスは「DropMusic」という音楽のストリーミングサービスだったのですが、瞬く間にユーザーを集めて成功しました。

 1年間かけた実験で2人の発明家を生むことに成功したわけですが、もっとたくさんの発明家を輩出できないだろうかと考え始め、今度は学生の段階から、100%子会社ではなく、一部お金を出す形で仕組みとして作っていこうと「Startup Boarding Gate」という挑戦をすることにしました。挑戦と銘打ったのは、今回の取り組みが一発目なので、成功しないと次の段階に進めないという意味でもあります。ぜひここから新しい発明家が生まれてほしいと考えています。

 お金と経験と仲間以外に重要だと思うのは、脳みそに汗をかいてアウトプットしないといけない環境だと思います。例えば大学受験であれば、受験日は決まっています。受験日に向けて勉強を頑張って、ダメならば大学に行けないわけです。でも、最近の学生に多いのは、「いつでもいいや」というものだったり、「いつかできたらいいや」という考えではないでしょうか。若者に会う中で、「いつか起業したいです」と言う人たちがいっぱいいるんですが、いつまでも起業しないんですよね。「いつか」は一生来ないんです。だから、期限を設定して、ここまでに結果を出さないと駄目なんだという期間を設け、期限までにできたものをプレゼンして、お金が一円も集まらなかったらチームを解散するというルールを決めています。期間の中で考えてアウトプットしなければならないというプレッシャーと、成果がシビアに判断されるという環境を提供したいのです。

スマホの普及がもたらした「リアルタイム性」と「リアルな場所」

 最後に、私たちが新しいサービスを生むときに考えていることについてを話をします。新しいものを生み出すというのは一言でいうとすごくかっこいいことですが、それは結構大変なことで、まずどのようにして新しいものを考えていくかが重要になります。世の中にあるWebサービスの中でも、様々なものが流行っています。例えば、「Uberが流行っているので、Uberみたいなことをやろう」とか、「Airbnbが流行っているから同じことをやったらいいんじゃないか」という発想をすることが多いと思うんですけども、表面的なところを捉えていてもだめで、世の中で起こっていることは、もう一個下のレイヤーを共通して流れているんです。もっと大きなうねりみたいなものがあって、流れをきちんと見極めていかないと、目の前で起こっていることに囚われてしまいます。Airbnbが家を借りるサービスだから、オフィスでやろうというような横展開の話ではないんですよね。もっと世間で起きている経済の問題や、人間の心理などの背景に共通して起こっていることを見極めることが必要です。

 毎年、社員総会で「こういったブームが来ますよ」という話をしてるんですが、私が今年の社員総会で話した内容を一言で言うと「リアル」についてでした。「リアル」を潮流にしたブームが起こっていて、新しいサービスが生まれているという話をしたのですが、「リアル」とはどういうことなのでしょうか。例えば、様々なやりとりがリアルタイムになることで、生活が変わるということがあるでしょう。最近流行している「メルカリ」というサービスと「ヤフオク!」では何が違うのかという話も、リアルタイムの話につながっていきます。ヤフオク!は出品数が多く、プラットフォームとして成立しているのに、何でベンチャーが参入して、アメリカでも成功しているのかを考えてみてください。スマートフォンに特化してるからとか、UIが優れているからとか、そういう話として捉えるとすごい表面的な部分しか捉えられていません。例えば、引越しをするときに家にある不要品を処分したいと考えたとしましょう。ヤフオク!だとだいたい取引までに一週間かかるため、引っ越しをする当日にヤフオク!に出品しても、どれが売れるのかは判断できない訳ですよね。でも、メルカリでは、リアルタイムで物が売れます。引っ越しの当日の朝であっても、売れる物の判断が出来るため、使い方がヤフオク!とは異なります。サービスの使い方が変わると提供される価値も変わります。今まであったようなものでも、サービスにリアルタイム性を持たせた瞬間に提供する価値は変わるんですよね。

 渋谷近辺であれば、30分あれば弁当が配達されます。配達までに2時間かかるサービスでは意味がありません。15分や30分でできる、つまりはリアルタイムで使えるサービスとして価値が出てきます。リアルタイム性を実現しているのは、スマートフォンの普及とそれに伴う決済の簡単さと位置情報の取得であり、スマートフォンを使った機能やビジネスについて考える必要があります。

 パソコン中心のサービスだと、サービスの提供場所と自分が実際に行動する場所が違うことがあります。パソコンで飲食店を探す時は、今どこで食事をするのかを考えていることは少ないですが、スマートフォンだと、その場で食事をする場所を探すことができる。パソコンだとサービスと実際の行動の間にラグがあり、サービスが提供する価値も変わるので、場所やサービスの提供場所について考えていくことも必要です。

 現在流行しているサービスには、「リレーションシップ」に関する潮流もあります。例えば、知らない人に家を貸すというのは不安ですよね。ただ、Facebookである程度共通の友達がいるような知り合いであれば、貸してもいいと思いませんか?「リアルな信頼」という価値が、家を貸すときにもプラスされるわけです。信頼によって、今までだったらありえないような新しいサービスが進んでいくということもあるでしょう。

 PCからスマートフォンに移行することは当たり前のようになっていますが、実際のところ何が変化しているのか、きちんと考える必要があると思っています。パソコンからスマートフォンやタブレットへの移行によって何が変わるかというのを、リアルタイム性やリアルな場所、そして人間関係について見つめ直すと、既存の思考とは全く違うサービスを考えていくことが出来ます。

「何をシェアするのか」ではなく「何が余っているのか」を考えよ

 最近、「シェアリングエコノミー」という言葉が流行っていますが、「あれをシェアしたらいいよね」というようにサービスを捉えていくと、また表面だけの話になっていくと思います。実際、何がシェアされているのかを考えていくと、要は余剰な資産ですよね。使っていないものがシェアされて、初めて新しい経済が生まれてくるわけです。放っておいたらまったく価値を生まないものでも、年間3%や5%でも利益を得ることが出来る余剰な資産があるんじゃないかと考える人が増えました。Airbnbがまさに今、そういった余剰な資産を有効活用しようとサービスを作っていますが、何が余剰な資産になっているのかについて考えるべきで、何をシェアするのかを考え始めてしまうと表面的になってしまいます。シェアリングエコノミーについて考えるときは、何が余剰になっているのかを考えることが重要です。

 私たちが余剰な資産について考え、現在取り組んでいることは、過去のマンガや音楽などの作品の中にはまだ十分に価値があるものがあり、見られていなかったものでも見ることができる機会を作ることで、余剰な資産を活用することができるというものです。過去のマンガ作品を無料で提供するサービス(編集者註:「DropComics」)を始めるのですが、このサービスは余剰な資産の再活用になると考えています。無料で提供するビジネスモデルや、定額課金してもらうようなビジネスモデルを作ることで、エンターテイメント性が高いサービスやアプリも大きく変わっていくと考えています。未来を考えていくということをしないと発明は生まれません。ここから多くの発明が生まれていくことを「Startup Boarding Gate」には期待しています。

 以上です。ありがとうございました。

Startup Boarding Gateとは

「Startup Boarding Gate」とは、起業を目指す学生が持つ「ものづくりへの想い」をカタチにするプログラムです。Startup Boarding Gateの目的は、「これまでの世の中にない価値を若者の手で生み出す」こと。ドリコムではStartup Boarding Gateを通じてイノヴェイションを起こす起業家の育成・支援を行っています。

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