FacebookやGoogleは、もはや生活になくてはならないサービスだという人も多いのではないでしょうか。多くの人が利用し、自分に最適な情報を手に入れていると錯覚しがちなGoogleの検索やFacebookのニュースフィード。しかし、アメリカで人気のバイラルメディア「Upworthy」のCEOであり、インターネット活動家であるイーライ・パリザーはこう指摘します。「Webで見ることのできる情報の多くは実はフィルタリングされている。もしかしたら、あなたと私のGoogleの検索結果は異なっているかもしれない」と。
ここでは、イーライ・パリザーがTEDで指摘した、インターネットでの情報がフィルタリングされているという事実とその危険性についての講演を紹介します。
スピーカー
イーライ・パリザー/インターネット活動家・バイラルメディア「Upworthy」 創設者
見出し一覧
・GoogleとFacebookは私達が見る情報を操作している
・インターネットは「フィルターに囲まれた世界」
・フィルタリングのない「理想のインターネット」を追い求めて
動画
GoogleとFacebookは私達が見る情報を操作している
FacebookのCEOであるマーク・ザッカーバーグが、Facebookのニュース配信機能についてジャーナリストから質問されていました。「なぜニュース機能は重要なんですか?」とジャーナリストが聞くと、ザッカーバーグは「たとえ話ですが、あなたの関心はアフリカで死に瀕した人々より、家の庭で死にかけているリスに向けられているのではないですか?」と答えました。マーク・ザッカーバーグが言ったような、自分と出来事の関連性の考え方をもとにしたWebとはどういうことか話したいと思います。
メイン州(アメリカ)の片田舎に住んでいた私にとって、子供の頃の「インターネット」は現在とは全く違う意味を持ったものでした。インターネットは世界へのドアであり、人々を繋げるものでした。インターネットが民主主義と僕たちの社会に大きく役立つに違いないと思っていました。しかし、私達の見えないところでインターネットの情報の流れに変化がありました。この変化は、注意しないと大きな問題になるかもしれません。私がインターネットの情報の流れの変化に初めて気付いたのは、Facebookのページを見ている時のことでした。私は政治的には革新派ですが、進んで保守派とも交流しています。保守派の考えを聞き、保守派のサイトを見ることで何か学びたいと思っています。ある日、私のFacebookの配信から、保守派の情報が消えてしまって驚きました。何が起こったのかと言うと、私がクリックしたリンクをFacebookがチェックしていて、保守派よりリベラル派の友達のリンクをクリックすることが多いと気付いたため、何の相談もなく保守派の情報を削除していたのです。私のFacebookのニュースフィードから保守派はいなくなってしまいました。
このように目に見えないところでアルゴリズムによるWebの編集を行っているのは、Facebookだけではありません。実はGoogleもWebの編集をしています。Googleを使って検索をするとき、私とあなたでは同時に検索したとしても大きく異なる結果が表示される可能性があります。あるエンジニアによると、Googleのサービスにログインしていなくても、57個もの項目をGoogleではチェックしているそうです。どんなPCを使っているのか?どのブラウザを使っているのか?現在地は何処か?Googleはこれらの項目をチェックすることによって、検索結果を調節しているのです。
ちょっと考えてみてください。もう「普通」のGoogle検索は無いに等しいのです。そして妙なことに、このことは認識しにくい現象です。自分の検索結果と他人の検索結果がどれほど違うかは普通分かりません。
私は数週間前に、Googleで「エジプト」と検索したスクリーンショットを送ってもらうように大勢の友人に頼みました。ここで私の友人のである、スコットとダニエルの検索結果を見てみましょう。
2人の検索結果を並べて見てみると、リンクを読むまでもなく2つのページの違いに気付きます。リンクを読んでみるとさらに驚きます。ダニエルのGoogle検索結果では、エジプトのデモの関連記事が全くなく、スコットの方は反対にデモの記事ばかりでした。依頼をしたとき、エジプトではデモが大きな話題だったのにも関わらず、検索結果は大きく異なっています。
インターネットは「フィルターに囲まれた世界」
GoogleとFacebookだけではありません。Webの編集はウェブ全体で起こっています。多くの企業が個人一人ひとりに向けて情報のカスタマイズをしています。Yahoo!ニュースはネット最大のニュースサイトですが、今では人によってカスタマイズされた違う内容を提示しています。Huffington PostやWashington Post、さらにはNew York Timesも様々な形で情報のカスタマイズを試みています。その結果、インターネットは「私たちが見たいもの」を予測して表示していますが、私たちが本当に見る必要がある情報が表示されるわけではないという状況に急速に変わってきています。エリック・シュミット(Googleの元CEO)は、「カスタマイズをされていない情報を、人々が見たり利用したりするのはとても難しくなるでしょう」と言っています。
誰もカスタマイズされていない情報を見ることができないことは大きな問題だと思います。情報操作のためのフィルターやアルゴリズムによってできるのは、「フィルターに囲まれた世界」だと思うのです。そして、この「囲まれた世界」がネット上では、あなただけが持つ個人の情報世界となるわけです。自分の世界に含まれるものは自分がどんな人で、何をしているかによって決まります。しかし、何が取り入れられるのか決めるのは自分自身ではありません。これが問題なのです。もっと重要なのは、自分の世界を形成することで、何が削除されたのかは見えないことです。フィルターによる問題の1つは、Netflix(DVDのオンラインレンタルサービス)のデータアナリストたちによって発見されました。発送待ちの段階である妙なことが起こっていたのです。映画によってはDVDをオーダーすると、すぐに発送されて家に届きます。「アイアンマン」のような大衆が見たいと思う映画はすぐ届くのに、「ウェイティング・フォー・スーパーマン(アメリカのドキュメンタリー映画)」のような考えさせられるような作品は待ち時間がとても長いことがあります。
データアナリストたちがDVDの発送を待つ段階で発見したことは、利用者の計画的な向上心と、もっと衝動的な今の欲望が大きく対立している状況でした。ユーザーは「羅生門」を観たことがある人になりたいと思う一方で、4回目の「エース・ベンチュラ(コメディ映画)」を観たいわけです(笑) 最良の編集は両面を見せるものです。ジャスティン・ビーバーを少し、アフガニスタンの紛争を少し、「ヘルシーな情報」と「デザートのような情報」も提供するわけです。アルゴリズムでカスタマイズされたフィルターの問題点は、利用者が最初にクリックした内容をメインにして参考にするため、情報のバランスが崩れてしまうことです。バランスのとれた情報摂取の代わりにジャンクな情報ばかりに囲まれてしまうこともあり得ます。
つまりインターネットに対する我々の見解は、間違っているのかもしれないということです。メディアが作りだした神話にはこんな一節があるのではないでしょうか。「放送・出版業界は門番でした。編集者によって、情報の流れがコントロールされていました。でもインターネットが現れ、門番を追い払ったのです。私たちは繋がり合えるようになりました」。しかし、実際にはこの神話はウソです。私たちが目にしているのは、どちらかと言うと編集者という門番からアルゴリズムの門番にバトンが渡されている状況です。そして、問題はアルゴリズムは編集者が持つような倫理観念がないということにあります。ですから、世界の情報をアルゴリズムが監修し、私たちが見るものを決めるのであれば、アルゴリズムが情報の関連性以外の要素も考慮するようにしなくてはなりません。見たくないものや難しいもの、重要なものなども提示するようにしなくてはだめです。
フィルタリングのない「理想のインターネット」を追い求めて
過去にも我々は同じ問題に直面しています。1915年のことです。当時、新聞は市民の義務についてあまり考えていませんでした。でも、人々は新聞が重要な役割を果たしているということに気付きました。市民が適切な情報を得ていないと、民主主義は機能しないのです。よって、情報のフィルターを行う新聞が重要だと市民は考え始め、ジャーナリズムの倫理ができました。ジャーナリズムの倫理は完璧ではありませんでしたが、私達と新聞は1世紀の間、この倫理を守りました。現在、私たちは「ウェブ上での1915年」に直面しています。プログラミングをする上で、倫理的な責任を組み込んでくれる、新しい門番が必要なのです。
この講演は、FacebookとGoogleからの出席者にも聞かれているでしょう。ラリー・ペイジやサーゲイ・ブリン(2人ともGoogleの創設者)のように、今あるWebの構築に貢献した人々には感謝しています。しかし、アルゴリズムには生活や市民が果たすべき義務がしっかりと組み込まれているように彼らに確認してもらいたいのです。アルゴリズムが明白で、情報の取捨選択を決めるフィルターのルールが理解できるようにして欲しいのです。さらに、何が削除されて何がされないかを自分で決められるように管理できるオプションを提供してもらいたいのです。インターネットが私たちの思い描いていたようなものにである必要があると思うからです。私たちが思い描いたインターネットとはみんなを繋ぐものであり、新しいアイデアや人々、そして異なる視点を提示するものです。「理想のインターネット」を達成するためにも、Web上で私たちが孤立しないようにするべきです。
ありがとうございました。
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