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「いいね!乞食」はダメ!大ヒットを連発する2人のCMプランナーが示すクリエイティブなCMの作り方

椿龍之介

2014/09/09(最終更新日:2014/09/09)


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「いいね!乞食」はダメ!大ヒットを連発する2人のCMプランナーが示すクリエイティブなCMの作り方 1番目の画像
 バイラルメディアやYouTubeで注目を浴びることにより、単にテレビで放送されるよりもさらにユーザーの注目度が増しているCM。しかし、電通でエグゼクティブ・クリエーティブディレクターを務める高崎卓馬氏と、博報堂ケトルでアカウントプランナー兼クリエイティブディレクターを務める木村健太郎氏は言います。「近年流行しているような、人気のCMと似せて新しいCMを作ることは面白くない」と。

 ここでは、日本の良さをクリエイティブな映像作品によって伝えるコンテストである「 my Japan Award 2014」のプレイベントとして行われた、高崎卓馬氏と木村健太郎氏の講演内容をまとめていきます。

見出し一覧

・「映像は人間を捕まえる」。CMの目指す現在の方向性
・東日本大震災がメディアと映像作品にもたらしたもの
・リアルよりもリアルらしいものを作るためには偶然性が必要
・ターゲットは1人に絞れ:万人にウケるものは万人に無視される
・「いいね!乞食」はNG:最近のバイラルムービーブームに警鐘
・思い悩んで生まれた「黒いクジラ」のCM
・一言で言える企画は100%面白いものになる

スピーカー

高崎卓馬氏/電通 エグゼクティブ・クリエーティブディレクター
木村健太郎氏/博報堂ケトル アカウントプランナー、クリエイティブディレクター

「映像は人間を捕まえる」。CMの目指す現在の方向性

 CMの作り方ということで、まず、高崎氏と木村氏の両氏から、CM業界が現在どのような状況にあるのか、簡単な説明がありました。

 高崎氏は以下のように述べます。
「CMの作り方は大きく変わったが、SNSのブームが落ち着いたこともあって、現在は元の作り方に近づきつつある。

 4年前はインタラクティブ性が無ければCMはダメだという風潮があったが意外と顧客はインタラクティブ性を求めなかった。なぜなら、映像は歌や小説と同様に表現手段であり、メディアの進化がたとえ起こっても不変のものだからである。結局は人間に何を伝えるのか、そしてどういう気持ちにして、どう動かすのかが重要」

 木村氏もこの意見に同調し、以下のように述べていました。
2000年代の主流は事実を映像化することだった。これはメディアの種類が4種類しかなかったからだ。 しかし、現在はデジタルの表現が加わり、メディアの種類が増えたため、メディアを選ぶことを考えるようになった。

 2006年にGoogleがYouTubeを買収し、動画がネット上に出回るようになった。YouTubeの影響でバイラルブームが起き、2007年はバイラルムービーだらけになった。しかし今はリアルを描く映像作品が主流となっている」

東日本大震災がメディアと映像作品にもたらしたもの



 Googleのプロジェクト「未来のキオク」。この取り組みでは、YouTubeなどのGoogleのサービスに震災で失われた記憶の断片である写真や映像が集められました。このCMを作成した木村氏はこのCMに込めた熱い思いを語ります。

「東日本大震災により、本当に全てのものがなくなってしまった。過去の思い出や記録は、人が前に進むために必要なものだが、これも全て失われた。そこでGoogleが考えたのは、提供するサービス上に記録の欠片を集めて『思い出を復興』することだった。

 この取り組みに対するCMを考えたときに、どうやったら日本中の人が動画をアップロードしてくれるのかを考えた。結果として、Googleがお願いするのではなく、被災者の人のリアルな声で記録を募った。これは、困っている人を助けたいという人間の本質部分に迫ったものだった。

 リアルは一般的に考えるリアルよりも強い。フィクションよりも、リアルを映像にすることを考えた」

 高崎氏は東日本大震災以降の価値観の変化について述べました。

「インターネットの凄さは人を実際に動かすことができるということ。映像もすごいが、それ以上に行動に結びつくことがすごい。

 映像中でやっている事が面白さとリンクし始めたのがちょうど東日本大震災の時期に重なっている。東日本大震災以降、日本人のなかで、必要なものと必要ないものの価値を問うようになった。実は海外でも、このころ同じ動きがあって不思議にリンクしている。社会に対して広告ができることを考えるようになった」

 この意見に対し、木村氏はブランディングに絡めて震災の影響を論じました。

「東日本大震災で見えた様々なことをコミュニケーションと絡めてブランドの価値を問うようになった。例えば、ただのお茶でも最初の目的は喉を潤すことかもしれないが、最終的には人を豊かにして、社会も豊かにするというミッションを掲げるようになり、『世界を変える』ことが多くの商品では目標になった」

 高崎氏は震災の影響は作家の価値基準も変わったことを付け加えました。

「作家は震災直前まで『おいしい』という言葉の言い換えをやり続けており、言い換えが上手く出来るひとは作家として優秀とされた。しかし、意識が高ければデカい仕事ができるという風に多くの人が認識するようになり、仕事の仕方も変化した。インターネットや東日本大震災はメディアの意味も、そして映像の意味も変えてしまった」

リアルよりもリアルらしいものを作るためには偶然性が必要



 ロバート・デ・ニーロと松田優作の息子である松田龍平の「夢の共演」が実現したDoCoMoの「dビデオ」のCM。こちらのCMを作成した高崎氏はあるCMとの出会いから、このCMが生まれたと語りました。

「『リアルにリアル風』に見せることがCMの製作をするときの大きな課題だった。CMはフィクションだけど、本当にできると視聴者に思わせるものでなければならない。そのためには、リアルで起きている問題の強さに負けないフィクションの強さを手に入れる必要があった。

 『dビデオ』のウリは、今までの動画配信サービスよりもクオリティが高いところだったが、企画を考えるときに参考にしたのが九州新幹線の全線開通時に作られたCM。このCMは震災の影響もあり公開は短期間で終わったが、YouTubeで大ヒットした。


 このCMにはイベント性があり、実際に開通したことを多くの人が喜んでいるという企画を超えた迫力があった。自分はイベントを発生させて映像作品を作ることはできないが、企画を超えた迫力を伝えられるCMを作ろうと思った。

 こうした迫力を伝えるために出演を依頼したのがロバート・デ・ニーロ。デ・ニーロを使うにあたって問題になったのが『隣に誰を置くのか?』ということだった。松田龍平を起用したのは、父親の松田優作が病に倒れ、デ・ニーロと共演が叶わなかったというエピソードがあり、これを実現するためだった。結果として、自分自身も鳥肌が立つ作品を作ることができ、リアルではなく、フィクションで鳥肌を立たせられるような一段上の作品を作ることができた」

 フィクションであるにも関わらず、リアルなCMを撮るためには「偶然性」が重要になってくると木村氏は語ります。

「設計図があるものはどこか予定調和感があるが、映像作品はもっと人の出会いや偶然性を生かすべきだ。日本のCMは企画書通りに撮影するが、海外のCMは現場でCMの内容を変えてしまう。結果として企画書よりも数倍もいいものが出来上がってくる」

 高崎氏はCM撮影中のエピソードを織り交え、CMの生み出す偶然性に触れながら映像の面白さについて語りました。

「上田義彦(写真家・作家)氏とCM撮影を共にしたことがあった。その時は4日間の日程を押さえていたのだが、3日間は雨が降り、CMの撮影ができず、最終日の4時間でCMの撮影をしなければならなかった。普通ならCMの構成を変えるが、上田氏は変更をしなかった。もしかしたら『4時間でCMを撮り終えたらカッコいいから』という理由かもしれないが、仕事の仕方としてカッコいい選択をした方がいいと感じた。

 デ・ニーロの話に戻るが、デニーロの演技は動きが少ない。これはキャラクターの動きに真実味を持たせるためで、作り手の勝手な都合よりも、キャラや感動することを優先した結果、映像が面白くなった」

ターゲットは1人に絞れ:万人にウケるものは万人に無視される


 「万人にウケるものを作ろうとすると、誰にも伝わらない」と木村氏は主張し、箱根駅伝限定で放映されたトヨタの「86」のCMとGoogle Chromeの「初音ミク」のCMを紹介しました。

「86のCMに関しては、スポーツカー文化の復活を目指す86ファンの熱い思い、ChromeのCMに関しては初音ミクのムーブメントの熱気が込められている。実はどちらの作品も出てくるものにフィクションは一切存在せず、『分かる人にはわかる』映像作品になっている。

 100万人をターゲットにしたものより、1人をターゲットにすることが重要。その1人の熱量に皆が共感していく。全員を狙って作っても伝わらないものはたくさんある。例えば、最近川端康成が書いたラブレターが公開されたが、愛する人に宛てたラブレターは誰が読んでも感動する。そういった意味で作り手の情熱やエネルギーは重要になる

 このターゲットの話を、自分が作るべき作品の意義に落としこむことが必要だと高崎氏は話しました。

「表面的な思いつきは面白くない。自分は何を作りたいのかを明確にすることが重要なことになってくる。映像の可能性は無限にあるが、CMを作る理由としては1つあれば十分で。自分が今何をすべきなのか、そして映像の的確なテーマを決めることが必要だ」

「いいね!乞食」はNG:最近のバイラルムービーブームに警鐘



 見ているだけでワクワクするようなCMや、誰かに話したいというCMを見たことがあるという人は多いのではないでしょうか。KDDIが売りだした携帯電話の外付け用のカメラのCMを作った高崎氏は、SNSが流行する前から人への拡散を狙っていたそうです。

「『写メ』も流行りかけの時代、携帯電話用の外付けカメラは理解されにくかった。しかし、作り方を説明するようなCMは作りたくなかった。95%のCMは説明に終始しているためつまらない。説明ではなく、人が動くような物語性があるようなCMを作りたかった。そのなかで意識したのは、商品価値だけでなく、ブランド力のアピールもできることだった」

 見事このKDDIのCMはヒットし、バイラルムービーとして大きく成功しましたが、現在のバイラルムービーの増加に関しては懐疑的な意見も高崎氏は述べています。

「現在のCMにはいいことを大声で言おうとする、『いいね!乞食』が多すぎる。確かに『いいね!』は集まると承認欲求が満たされるので嬉しいが、SNSでの拡散を意識しすぎると面白さがなくなってしまう。『いいね!』はCMの制作者の心の弱さにつけ込んできて、万人にウケるものを作りたいという願望を持って間違った方向に進んでしまう原因になる。既視感があるものや魂がないもの、見たことがあると感じてしまうものをつくってもそれに意味はない」

 「いいね!乞食」に関しては木村氏も強く同調します。

「最近ありがちなのが、Facebookで『いいね!』をたくさん集めた動画をピックアップして『いいね!がもらえる5つの法則』のようなものを作って、全部をそこに当てはめようとするCMの作り方。それでは何も面白いものは作れない」

 いいね!の乞食の話の後、ロジカルで文字で訴えかける高崎氏のCMに対して、木村氏は自分のCMの作り方のスタイルとの違いを語りました。

「自分は海外向けのCMを作っていることもあって、ロジカルというよりかは人間の本性、すなわち普遍的に共通することでディレクションしている。それは、自分をターゲット自身に置き換えることは現実的に不可能なことだからだ。

 『SONY α NEX-5R』の海外向けCMを作るときにも意識したが、生活に結びつけることだけでなく、人間なら誰しもがもつ普遍的なストーリーやテーマにその会社のメッセージを置き換えることが重要。特に海外のCMは思想で共感を得るため、強く反映しなければならない」

思い悩んで生まれた「黒いクジラ」のCM



 実は先ほどのKDDIのCMを海外のコンテストに出したところ、全くウケなかったと高崎氏は言いました。文化の違いを乗り越えるために大きな発想の転換が求められたようです。

「文化の違いもあり、KDDIのCMは全く海外には通じないものになった。海外のCMは面白いのになぜ自分は同じようなCMができないのかもがき苦しむ時期があった。その中で作ったのが、公共広告機構の『黒い絵』のCM。言葉を使うことを止め、時間軸を変化させる中で最終的に結末に驚かされるものを作りたかった。世界一般的に問題に思っていることを主題にすることで、CMがしっかりと評価された」

 日本のCMを海外で通用させるためには大きなテーマの転換が必要だと木村氏は強調します。

「文化が異なることもあり、日本のCMはなかなか海外では評価されない。日本で当たり前だと思っていることが伝わらない場合もある。やはり人類に普遍的なユニバーサルなものを語ることが重要だ。人間の普遍的なテーマは突き詰めていくと類型化する。グローバルで通用する映像作品を作りたいのであれば、大きくテーマの見方を変えることが必要だ」

一言で言える企画は100%面白いものになる

 グローバルという視点で見ると、近年で1番の成功例とも言えるのが2020年の東京開催を決定したプレゼンの中で流された招致用のムービーが挙げられるでしょう。このCMを作成した高崎氏は映像作品を作るときは尺を意識すべきだと主張します。

「オリンピックのプレゼン用にムービーを作ったが、目指したのは全体のテーマをまとめ、終わり方を良くすることだった。そのため、テクニックよりも見た人が気持ちよく映像を見ることができるということを重視した。このムービーは4、5分のもので、ゆっくりと人を感動させることができたが、CMは15秒ぐらいで一気に人を感動させるためのテクニックもある。尺をどう使うかを意識した映像作りが重要だと思う。

 良い映像はシンプル。一言で言うことができて面白ければ良い映像を作ることは容易にできる。コンテを作るよりも、一言で言えることが重要なこともある」

 「エレベータートーク」のように一言で面白さを伝えることの有用さは、木村氏も同様に実感しているようです。

プレゼンをしていても、自分の企画が面白いのか否かはわかる。言語化することが重要で、言葉に出すことでやっと理解できるものもある。基本的に人間は自分に甘い。声に出すことで多角的、客観的に見つめなおすことが必要。

 一言で言うことの重要性は他にもあって、自分の頭のなかでこんがらがっていないかをチェックすることもできる。自分の中で、そのCMの『核』ができていれば一言で言うことができるだろう」


 ヒットしたCMを挙げ、その苦労話や成功秘話から、クリエイティブでグローバルなCMを作るための秘訣を語った高崎氏と木村氏。CMの作り方としてだけでなく、プレゼンや企画書を作る多くのビジネスマンにも通用しそうなノウハウが多く詰まったイベントでした。

my Japan Award 2014とは

 「my Japan Award」とは日本に生まれるさまざまな価値を、 クリエイティブの力で海外に発信する映像コンテストです。「ひとりひとりが思う日本の価値 」を表現し、独自の企画性と表現の力で競います。今年のテーマは「ガイドブックにない、“今”の日本の魅力。」グローバルにも通用する日本の魅力を海外へ伝えるような作品を募集しています。


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