1. 【全文】これが未来の「百聞は一見にしかず」。最高のコンピュータインタフェースは手かもしれない

【全文】これが未来の「百聞は一見にしかず」。最高のコンピュータインタフェースは手かもしれない

 「百聞は一見にしかず」という言葉がありますが、たしかに実際に見たほうが聞くよりも理解できるというケースはよくありますよね。「百聞は一見にしかず」と似たような、触って操作するカタチのパソコンや機械がこれからの主流になるかもしれないとインタラクティブ・デザイナーのジェームズ・パッテンは言います。

 ここでは、触って感じることができる新しいインタフェースの形を示した、ジェームズ・パッテンのTEDの講演を書き起こします。

スピーカー

ジェームズ・パッテン/インタラクティブ・デザイナー

見出し一覧

・観客を魅了するために必要なのは「手を使わせること」
・未来のインタフェースを端的に表す「オムニホイール」

動画

観客を魅了するために必要なのは「手を使わせること」

 コンピュータは、クリエイティブな表現をするための強力な道具ですが、その表現の大部分はノートPCや携帯電話の画面に閉じ込められています。物の操作や人とのやりとりができるコンピュータの力を、画面の中から我々のいる物質世界に引っ張り出すという話をしたいと思います。
 何年か前に、高級ファッションブランドの「バーニーズ・ニューヨーク」から電話をもらい、店のショーウィンドウの中に動く彫刻を作ることになりました。その作品は「チェイス」という名前で、男物と女物の靴が、ゆっくりと緊迫感のあるドラマを演じます。男の靴が女の靴の後を追い、近づきすぎると彼女はまた距離を置きます。靴の中には磁石が仕込んであり、テーブルの下の磁石と対になって靴を動かしています。
 友人がビョーク(歌手)の「バイオフィリア」というツアーのために、ロボットが自動演奏するハープを作っていました。私は、ハープを動かし音楽を奏でるための電子回路と制御ソフトを作ることになりました。このハープには4つの振り子があり、それぞれの振り子には11の弦があって、弦に振れると同時に振り子が回転することでいろいろな音を出します。それぞれのハープは、ネットワークで繋がり、正しい音とタイミングで曲を弾けるようになっています。
 あるとき、私は依頼を受け、シカゴ科学産業博物館のためにインタラクティブな化学の展示を作りました。その展示品はホッケーパックのような物を元素に見立て、周期表から取り出して組み合わせ化学反応を起こすという趣向のものでした。

 見学者が多くの時間をこの展示に費やしていることに気付き、オーストラリアの科学教育センターの研究者が、どうして多くの見学者は展示品に長い時間魅了されるのか調べることになりました。そこで分かったのは、手で動かす仕組みにすることは、展示品をどう使うのか理解することを助け、他の人と一緒に学ぶように促すということです。手を使うことは理にかなったことです。専用に作られている物の方がインターフェースとして使いやすいのは当然でしょう。しかし、私たちの手や頭というのは触れられる物について考え、そして扱うことに最適化されています。本物のキーボードとスマートフォンの画面上のキーボードではどちらが使いやすいか考えてみてください。きっと本物の方が使いやすいという方が多いでしょう。

未来のインタフェースを端的に表す「オムニホイール」

 しかし、ここまで話した3つのプロジェクトを通して痛感したのは、機械や仕組みは最初から作らなければならないことです。電子工学を探求する必要があり、プリント基板から機械仕掛けやソフトウェアまで作る必要があるのです。「コンピューターは制御している物を動かす」という概念に基づき、インタラクティブを生み出すような作品を毎回最初から作らなくても実現できるようにはならないのかと思いました。
 私が最初にした試みは、MITメディアラボで石井裕教授のもと、碁盤の目状に並べた512個の電磁石の上で物を動かせるようにするというものでした。問題は、磁石1つが1万ドル以上もすることです。磁石を合わせると重量が重くなり、机がたわんでしまうという問題もありました。

 そこで私は、碁盤の目状に磁石を並べる操作をどんな机の上でもできるようにするものを作りたいと思いました。このアイデアの可能性を探るために小さなロボットをたくさん作りました。それぞれのロボットには「オムニホイール」という特別な車輪がついていて、どの方向にも自由に動けるようになっています。このロボットとプロジェクターを組み合わせることで、デジタル情報を操作する有形のツールを作ることができます。
 例をご覧に入れましょう。これはビデオ編集アプリです。ビデオの操作はすべて手触りのある物を通して行います。色を調整したいと思ったら色編集モードに入り、3つのダイアルで色を調整します。音を調整する時も手で操作するダイアル2つで行います。左右のチャネルは同期していますが、チャネル同士で別々の設定にしたければ両方のダイアルを同時に動かすことで指定できます。オムニホイールを使ったダイアルを操作することによって、スピードや効率性を上げ、ソフトウェアのシステムの柔軟性と汎用性を併せ持ったものを作ろうというのが私のアイデアです。
 これは災害対応のためのマッピングアプリです。警官や消防車や救助隊を表す「駒」としてロボットを使い、通信指令室でロボットをマップの上で動かすことで、部隊に行き先の指示を出すようになっています。マップ上の駒の位置は対応する部隊の実際の位置と同期します。これはビデオチャットアプリですが、物にちょっとした動きを付けることで、これほどの表現ができることはまさに驚くべきことです。

 この「オムニホイール」を用いたインターフェースによって、従来のボードゲームとアーケードゲームの間の様々な可能性が開けます。物を使ったインタラクションが非常に変わった遊び方を可能にするからです。

 私が「オムニホイール」を使用するシステムの応用として特に面白いと思うのは、コンピュータや人間だけでは解くのが難しい問題に適用した場合です。例えば「タンパク質の折り畳み問題」があります。
 このインターフェースでは、画面の中のタンパク質に手でつかめるハンドルを使い、オムニホイールを動かすことで様々な畳み方を試すことができます。無理な動かし方をしようとすると、ハンドルが動きに抵抗する力を実際に感じることができます。分子シミュレーションが実際にはどうなっているのか体で感じ取れる点で、今までとは全く異なる理解が可能です。

 身の回りにある物の動きをソフトウェアで制御したら、どのようなことが可能になるかという探求はまだ始まったばかりです。未来のコンピューターはただの机になっているかもしれません。タッチスクリーンはなく、目に見えるハイテクなものは何もありません。しかし、ビデオチャットやゲームをやろうと思った時には、テーブルの上の物に命が吹き込まれるのです。

 どうもありがとうございました。

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