1. 【全文】「インダストリアル・インターネット」:人と機械の融合がもたらす新しいイノヴェイションの波

【全文】「インダストリアル・インターネット」:人と機械の融合がもたらす新しいイノヴェイションの波

 2014年のバズワードとして「IoT」がIT業界で言われているように、現在、モノとインターネットの関わり合いは急速に近づいてきています。モノとインターネットの関わりが強くなることで、ビジネスはどのような発展を示すのでしょうか?GEのチーフエコノミストであるマルコ・アンツィアータは、機械と産業の融合である「インダストリアル・インターネット」について最新のテクノロジーを交えながら語ります。

 ここでは、すぐそこに来ているかもしれない「インダストリアル・インターネット」の世界を説明したマルコ・アンツィアータのTEDでの講演を書き起こしていきます。

スピーカー

マルコ・アンツィアータ/GE・チーフエコノミスト

見出し一覧

・インダストリアル・インターネットは産業革命並の技術革新
・未来はすぐそこにある。インダストリアル・インターネットの今
・新しいイノヴェイションは「機械との競争」を呼ぶものではない
・イノヴェイションを確実なものにするためには適応と投資が必須

動画

インダストリアル・インターネットは産業革命並の技術革新

 アインシュタインは「私は未来のことなんか考えない。もう、すぐそこに来ているのだから」と言いましたが、まったくその通りだということがわかりました。皆さんには未来がどのような形で訪れつつあるのか考えていただきたいと思います。この200年間で世界は2つの大きなイノヴェイションを経験しました。1つは産業革命で、機械や工場をもたらし、私たちの生活は一変しました。そして、産業革命の後には情報革命が起こり、私たちは演算能力や情報ネットワーク、開かれた情報へのアクセス、通信手段を手に入れ、またも生活は一変しました。

 現在、私たちはさらなる変革を経験しつつあります。それは「インダストリアル・インターネット」と呼ばれるものです。高度な分析手法を持つ機械と人々の創造性と結び付ける、いわば「人と機械の結婚」です。インダストリアル・インターネットによって、私たちの生活はさらに変化します。

 私は現在、技術がどのように産業を変えつつあるかを間近に見ています。多くは経済や生活に大きな関わりのあるエネルギー、航空、輸送や医療といった部類の産業です。経済学者にとってイノヴェイションが起きることは非常に稀で、大変面白いことです。なんといっても、これは産業革命かそれ以上の力を持つ変革です。しかも、産業革命前には大した経済成長はありませんでした。

 インダストリアル・インターネットとはどういうものを指すのでしょうか?産業用の機械はより多くの電気センサーが付けられ、以前にも増して視覚や聴覚、触覚を持つようになり、桁外れのデータを集めることができます。高度化した分析手法でそのデータを選別し、全く新しい方法を用いることで、私達は効率よく機械を運転できるようになっています。それは個々の機械だけではなく、機関車や飛行機群、送電網や病院のようなシステム単位のものも含まれています。データを分析してシステムを効率化することは、資産の最適化でありシステムの最適化でもあります。電気センサーは新しいものではありませんが、センサーの価格が急激に下がり、クラウド・コンピューティングも進んだおかげで、データの保存・処理にかかるコストも瞬く間に下がりました。

 今、迎えつつある世界では、人間と共に働く機械は単にインテリジェントなだけでなく、卓越した知能を持っています。機械は自分で認識や予測行動ができ、物事に対して反応できると同時に社交性を持ち合わせます。ジェットエンジンや機関車、ガスタービン、医療機器がお互いに、そして私たちと途切れることなく意思疎通します。情報自体もインテリジェントになりつつあります。必要なときには自動的に情報が提供され、私たちはわざわざ情報を探す必要はありません。自動可視化、マルチコア・プロセッサ技術などのソフトウェア基軸の機械インフラを産業システム全体に取り込むことによって、ハードから機械ソフトを分離し、遠隔的かつ自動的に産業機器を監視と管理、そして改良できるようになります。

 なぜ機械インフラを産業システムに取り込むことが重要なのでしょうか?まず、すでに機械インフラは予防的に機械の状態の監視や保全を可能にしています。つまり、壊れそうな機械を察知して修理作業をすることで、定期的なメンテナンスで時間を無駄にしなくても済むのです。機械の故障を未然に防ぐことにより、計画外の休止時間がなくなり、停電やフライト遅延とも無縁になるわけです。

未来はすぐそこにある。インダストリアル・インターネットの今

 実際に優れた機械が稼働している事例をいくつかご紹介します。ささいに見えることも明らかに奥深いものもありますが、これから紹介するすべてのことに大きな影響力があります。

 まずは航空産業から紹介しましょう。現在、フライトの欠航や遅延の10%は予期せぬ障害によりメンテナンス作業をしたことが原因です。予期せぬ障害によって、毎年80億ドルもの損害が全世界の航空産業で発生しています。当然のことながら、私たち乗客もストレスを感じ、不便を強いられ、なす術もなくターミナルで座りこむことになります。さて、インダストリアル・インターネットで何ができるのでしょう?私たちは予防保守プログラムを開発しました。どんな飛行機にも導入でき、学習能力プログラムに持たせることで人間のオペレータも見落としてしまう問題も予測することができます。航空機は飛行中も地上の技術者と連絡を取り合って、着陸までに技術者は何を保守すべきかを知ることができます。予防保守システムがあれば、アメリカだけでも毎年6万件以上の遅延や欠航を防ぐことができ、700万の乗客を時間通りに目的地に届けられるようになります。

 次に医療の例を紹介します。現在、看護師は1回のシフトのうち平均して21分を医療機器を探すために使っています。21分という数字は大したことがないと感じてしまうかもしれませんが、時間のロスにより患者に向き合う時間が減っているのは事実です。テキサス州ヒューストンにある聖ルカ病院では、インダストリアル・インターネット技術を導入し、電子的に患者とスタッフ、そして医療機器をモニターして結びつけたところ、ベッドから離れる時間を1時間も減らすことができました。手術の所要時間を考えると、1時間の削減は大きいですよね。より多くの患者を治療し、より多くの命が救えるということになります。また、ワシントン州にある別の医療センターではスキャナやMRIの医療画像をクラウドで分析することができるアプリケーションを試験導入し、より良い診断を低コストで提供しています。たとえば重傷を負った患者がいて、神経医と心臓専門医、外科医の治療が必要だとしましょう。もし全ての医者がその場で同時にスキャン画像を見ることができたら、より良い医療をより早く提供できます。画像解析アプリはより良い医療につながり、さらには大きな経済的利益をもたらします。今の非効率さをたった1%無くすだけで全世界の医療産業全体で6000億ドル超の支出を減らすことができます。この取り組みはまだ小さなことに過ぎないでしょう。持続可能で手頃な医療を提供するためにすべきことはまだ山ほどありますから。

 同様の技術の進展は、再生可能エネルギーを含むエネルギー産業でも起こりつつあります。風力発電地帯には遠隔監視と分析をする新機能が備えられ、風力タービンが互いに情報共有して全体的な発電効率を高めるように翼の向きを風の吹き方に合わせて調整します。それにより発電コストはキロワット時5セント以下になります。10年前の発電コストは30セントで現在の約6倍でした。

 このような事例は無数にあります。産業データが急激に増えているからです。2020年までには産業データは全デジタル情報の50%以上になるでしょう。

 インダストリアル・インターネットはデータの話だけにとどまりません。この新しいイノヴェイションは新しいツールやアプリケーションをもたらし、私たちがよりスマートに早く機械と連携できるような支援を行い、仕事を単に効率的にする以上の利点があります。例えば、風力発電施設のフィールドエンジニアは、携帯端末を見るだけでどのタービンの補修が必要か分かります。事前に問題が分かっているので必要な補修部品も持っています。また、もし何か予期しない問題が生じても、携帯端末でサービスセンターにいる同僚と連絡を取り、自分が見ているものと同じ状況を見せて、診断に必要なデータを送信すればよいのです。同僚が必要な修理手順の説明をしてくれるビデオを送り、機械を直すための手順が複雑であっても一つひとつ理解することが出来ます。同僚とのやり取りは記録され、検索可能なデータベースに保存されます。

新しいイノベーションは「機械との競争」を呼ぶものではない

 この新しいイノヴェイションの波は、私たちの働き方を根本的に変えます。仕事に与える影響を心配されている方もいるでしょう。失業率はすでに高く、イノヴェイションがさらに仕事を奪うと恐れられています。たしかにイノヴェイションは破壊的です。そこで2点のことを強調させてください。1つは、私たちはすでに農業の機械化と産業の自動化を生き延び、むしろイノヴェイションによって最終的に雇用は増えました。イノヴェイションとはそもそも成長なのです。製品はより手頃になり、新しい需要や仕事を生み出しました。

 2つ目は、将来的に技術者やデータ科学者などの高度な専門職にしか職業がなくなってしまうのではないかということです。考えてみてください。子どもが簡単にiPadを使いこなせるように、産業アプリケーションはどんなレベルの労働者にも使いやすいでしょう。将来の労働者はアイアンマンのような機械を巧みに使いこなすイメージであって、チャップリンの「モダン・タイムス」のような機械の歯車の一部となる姿ではないのです。そして、新たな高度な専門職も確実に生まれるでしょう。機械とデータを両方理解する「デジタル・メカニカルエンジニア」と呼ばれる職業もその1つで、自らの業界や分析論も理解できる経営者は技術を最大限活用してビジネスを再構築します。

 「現在のイノヴェイションは、ソーシャルメディアやくだらないゲームのことばかりで産業革命のような変革する力など全くない」と言う人もいます。成長を生むイノヴェイションはとっくに終わったというのです。石器時代でさえイノヴェイションを批判的に見る人がいたんだろうと思います。たき火の周りに陣取ってぼんやりしている穴居人たちが他の穴居人が石の輪を転がして丘を上り下りしているのを見て「あの石の輪はおもしろいけど、火に比べたら大したことはない。もうイノヴェイションは終わったんだ」と言うんです(笑) 

イノヴェイションを確実なものにするためには適応と投資が必須

 現在起きている技術変革は、これまでにないほどに素晴らしい変革の力を持っています。人間の創造力とイノヴェイションはいつの時代も私たちの原動力となり、仕事を生み出し、生活水準を押し上げて私たちの生活をより健康で価値のあるものにしてきました。産業を席巻し始めている技術変革も、今までのイノヴェイションと同じなのです。アメリカだけで見ても、インダストリアル・インターネットは平均所得を今後の15年で25%から40%押し上げ、ここしばらくなかった成長率で世界のGDPを10兆から15兆ドル増やします。その額は、現在のアメリカ経済全体とほぼ同じ規模です。

 しかし、これらの驚くべき数字は約束された未来ではありません。今はまだ変革の初期の段階で、打ち砕くべき障害や乗り越えるべき障壁があるでしょう。新しい技術への投資が必要で、組織や経営も適応させなければいけません。また、堅固なサイバーセキュリティーで機密情報や知的財産を保護し、サイバー攻撃から重要なインフラを守る必要があります。さらには、学生がイノヴェイションにふさわしいスキルを身に付けられるよう、教育も変わらなければいけません。どれも簡単なことではないでしょう。しかし、やってみるだけの価値はあります。

 現在直面している経済的課題は厳しいものです。しかし、私は人間と卓越した機械が互いに結びつけられつつあり、また人間と機械の融合により病院や空港、発電施設が変わるのを見ています。新しい技術革新である、「インダストリアル・インターネット」はすぐそこまで来ています。ですから未来を考えましょう。すぐそこにある未来を。

 ありがとうございました。

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