1. 【全文】なぜ私たちはWindowsを使いにくいと感じるのか?ユーザーが本当に求める「シンプルさ」

【全文】なぜ私たちはWindowsを使いにくいと感じるのか?ユーザーが本当に求める「シンプルさ」

 突然ですが、Windowsユーザーのあなたは、この記事を読まない方がいいかもしれません。現にWindowsでこの記事を書いている私は、とても悲しい気持ちですから。PCを筆頭に、世の中に溢れる製品はどんどんハイテク化しています。しかし、ユーザーは複雑な製品をどれだけ使いこなせているのでしょうか?

 アメリカで大人気のコラムニスト、デビッド・ポーグが商品づくりで最も大切なことをコミカルに語ったTEDのプレゼンテーション動画の書き起こしから学んでみましょう。

スピーカー

デビッド・ポーグ/米New York Times パーソナルテクノロジーコラムニスト

見出し一覧

・テクノロジーの進化についていけない!
・マヌケなクレームの数々
・人は不要なアップデートを望んでいる
・便利にしたはずがどんどん不便に…
・シンプルにするためのルール
・複雑さから抜け出せない会社「Microsoft」
・シンプルが遂に勝利した「iPod」
・やさしいものほど難しい

動画

テクノロジーの進化についていけない!

 (♪「サウンドオブサイレンス」の節で)やあ、ボイスメール、懐かしき友よ(笑) またテクニカルサポートに電話した♪上司の忠告を聞かず月曜の朝に電話した♪今はもう夜中、晩ご飯は冷たく、それから固くなった♪受話器を握ったまま沈黙に耳を傾けている♪分かっているとは思わない、電話の向こうにはきっと誰もいない♪言われた通りにボタンを全部押したけど、18時間も待たされたままやつらのソフトでMacがクラッシュしただけでなく絶えずハングし、爆弾マークROMさえ消えた!今や沈黙するMacに耳を傾けている復讐の夢に思いを巡らせる♪彼らがバイク事故を起こし、傷からは血が流れ出し、薄れゆく意識の中で119番をダイヤルし医師が来るのを待っている♪しかし、やってくるのは俺だ(笑)そしてやつらは沈黙に耳を傾ける(拍手)
 
 どうもありがとう。こんばんは「ブロードウェーの伴奏者だったTED講演者を当てろ」のコーナーにようこそ(笑)

 6年前に、ニューヨークタイムズから「最高にクールで新しいガジェットを、とにかく遊び倒してレビューをかけ」というテーマで依頼を受けました。テクノロジーおたくだった私にとって、この仕事は最高です。しかし、問題がありました。コラムの末尾に、いつも私のメールアドレスがついていたのです。そのため、膨大なメールを受け取ることになりました。

 寂しがり屋の人は、ニューヨークタイムズでコラムを書くといいですよ。何百通というメールを貰えますから。最近受け取るメールの多くは、新機種に対応できない不満についてです。人々が感じているのは…おっと、またメールが来たよ。プロジェクターに映してなくて良かった。

 多くの人は、テクノロジーの変化の早さに圧倒されています。いいテクノロジーなのかもしれませんが、十分なサポート体制があるとは言い難いです。それに、使うのが楽しくなる、ずっと触っていたいようなデザインになっていません。

 Dellのテクニカルサポートになかなか連絡が取れなかった話をコラムに書いたら、12時間の内に700件ものメッセージがニューヨークタイムズのサイトのコメント欄に寄せられました。「私もそうだった」「私なんかこうだった」…。私はこれを「ソフトへの怒り」と呼んでいます。

マヌケなクレームの数々

 どうしてこんなことになったのでしょう?皮肉なことに、業界がソフトを使いやすくしようと力を注いだためなのです。説明しましょう。

 これがかつてのコンピュータDOSです。年を経て、コンピュータは使いやすくなっていきました。これが初代のMacオペレーティングシステム。レーガンが大統領で、マドンナがまだブルネット(編集者注:褐色の髪のこと)だった頃のものです。オペレーティングシステム全体が211KBに収まりました。Mac OS Xなんてロゴだけで211KB以上あるでしょう(笑) コンピュータが非技術系の人でも使えるようになったことで、幅広い人々が初めてコンピュータに触れるようになりました。

 私は以前、Appleのコールセンターで1日過ごしたことがあります。予備のヘッドセットで会話を聞かせてもらいました。「この電話での会話は、品質保証のため録音されることがあります」という注意があります。

 実は違うんですよ。彼らはバカなユーザーのおかしな話を集めて、CDにするために録音しているんです。私もコピーをもらいました(笑) さっきお配りしたのがそれです。嘘です。その中には、次のような話があります。

 マウスがキーキー鳴ると、ある女性がAppleに電話で苦情を言ってきました。「マウスがキーキー鳴るとはどういうことですか?」と担当者が尋ねると、「とにかく速く動かすほど画面が酷い音を出すのよ」と言うのです。担当者が「もしかして画面の上でマウスを動かしているんですか?」と聞くと「"ここをクリックしてください"って出ているじゃないですか!」だって(笑)

 こんな話がお好きなんですか?それならもう一つ。ある男が電話してきました。「コンピュータがクラッシュしたんだが、何度11をタイプしても再起動しない!」と文句を言うのです。「どうして11をタイプしたんですか?」と聞くと、「"エラータイプ:11"とメッセージが出たからに決まってるだろう!」だって(笑) これらはユーザーが無知すぎる例ですね。

人は不要なアップデートを望んでいる

 しかし、どうしてテクノロジーは次々と複雑化するのでしょう?ハードウェアの世界では、消費者はより小さいものを望みます。ガジェットはどんどん小さくなります。ですが、人間の指は同じサイズのままです。だからどんどん操作しづらくなるのです。

 ソフトウェアは違います。次々と新バージョンを出すのです。ソフトウェアは花瓶やキャンディーのように所有するわけではありません。毎年、会費を払うクラブに入るようなものです。毎年ソフト会社は言ってきます。「機能を追加しました。99ドルです」とね。

 Photoshopだけで4,000ドルも払っていた人もいます。ソフト会社は、収入の35パーセントをアップグレードから得ているのです。しかし、ソフトウェアというのは改善し続けているとそのうち駄目なる「アップグレードのパラドックス」が存在するのです。

 Microsoft Wordが単なるワープロだったのは、アイゼンハワー大統領の時代(50年代)までです(笑) Wordはどんどん難しくなりましたが、だからと言ってどうすれば良かったのでしょう?Microsoftは実際試したことがあります。「みんなが機能を追加しすぎだと言うのなら、ワープロだけのソフトを作ってやろうじゃないか。シンプルで純粋な、Webページ作成やデータベースのないやつを」とね。

 それがMicrosoft Writeです。誰も知らないですよね?誰も買わなかったからです。私はこれを「SUVの原理」と呼んでいます。みんな必要もないパワーに取り囲まれているのが好きなのです。データベースやWebページ作成機能なんて必要ないのに、「アップグレードしておこう。そのうち必要になるかもしれないから」なんて言うのです。

便利にしたはずがどんどん不便に…

 問題は、機能を追加していくとどうなるかです。どこに付けたらいいかも分からないようなツールばかり。ボタンがあって、スライダーがあって、ポップアップメニューがあってサブメニューまで…。しかし、やみくもに選んでいるとこんなことになってしまいます(笑)
 細工なんてしてませんよ。正真正銘のMicrosoft Wordの写真です。皆さんのWordでも、ツールバーを全部出すとこうなります。これだと、タイプできる部分はほとんどありません(笑) 今やインターフェースのマトリックスの時代です。あまりに多くの機能やオプションがあり、2次元が必要です。Microsoft Wordが点を箇条書きに変えたり、URLに勝手に下線を付けたりするとみんな文句を言いますよね?でも、それをオフにするスイッチがあるのです。本当にどっかにはあるんです!

 シンプルで良いインターフェースをデザインするコツは、機能のどれをどこで使うべきか把握することです。これはWindows2000のログオフダイアログです。
 選択肢が4つしかないのに、プルダウンなんていらないですよね?他にいろいろコンポーネントがあります。全部見えるようにだってできたはずなのに。
 Appleなら、同じダイアログボックスをこう作ります。(拍手)ありがとう。ええ、私がデザインしました。もちろん嘘です。AppleとMicrosoftでは、デザインに対するアプローチは大きく違います。Microsoftはシンプルにするために、分解してステップを踏ませようとします。この秋にWindowsの新バージョンが出てきますが、彼らがこの調子で続けていくなら、いったいどんなことになるのか予想も付きません。

 「単語入力ウィザードへようこそ。[次へ]をクリックしてタイプしたい最初の文字をプルダウンメニューから選んでください」なんてことになったら大変です。超えるべきでない線というものがあるのだと、お分かり頂けたでしょうか?

シンプルにするためのルール

 どうやったら機能を知的に、そしてシンプルに詰め込むことが出来るのでしょう?私は一貫性を保たせ、ゴミ箱のような実世界のメタファをふんだんに使い、多くのものにラベルを付けておくことが重要だと考えます。しかし、デザイナーのみなさんは、知的にするためなら今あげたルールを破るのもアリでしょう。一貫性が欠けても、より良いデザインになることもあるのです。

 Webで買い物をするときには、まず国を選びますよね?世界には国が200くらいあります。インターネットにはすべての国をつないでほしいですが、残念ながら今はまだなっていません。インターネットを多く使っているのは、主にアメリカとヨーロッパ、そして日本です。

 それならどうしてアメリカ(UnitedStates)を"U"のところに置くんでしょう?たどり着くのに7画面分もスクロールしなければなりません。アメリカを一番上に置けば一貫性はなくなりますが、無駄がなくなります。

 また以前にも話しましたが、Windowsをシャットダウンするときに押すボタンが何で「スタート」なんでしょうね?(笑) 印刷だってそうです。ほとんどの場合、ページ順に1部の印刷物をいつものプリンタに出すだけのはずです。なのに何で毎回印刷するたびにたくさんのボタンが出てくるのでしょう?ジャンボジェットのコクピット並みです。しかも一番下のボタンが[印刷]ですらない(笑)(拍手)

 シンプルさを信条に掲げる会社は、Appleだけではありません。Palm(編集部注:アメリカで90年代に携帯情報端末Palmを開発した企業)も特に昔は素晴しかったです。Palmが絶好調だった90年代に社員と話しました。「あなたはここでどんな仕事をしているんですか?」と聞くと、彼は「タップ数を数えています」と言うのです。「何ですかそれ?」と聞くと、彼は「CEOのジェフ・ホーキンスが『Palm Pilotで3回より多くタップしなきゃいけないタスクはデザインし直しだぞ』って言うんです。だからタップ数を数えているのです」だって。どうですか?

複雑さから抜け出せない会社「Microsoft」

 一方、こちらはタップ数を数えていない会社の例です。Wordで新しい白紙の文書を作るとします。そういうことだってあるかもしれないでしょう?(笑) まずファイルメニューで[新規作成]を選びます。[新規作成]を選ぶと何が起きるのでしょう?新しい白紙の文書が出来るのでしょうか?違います。画面の反対側にタスクバーが現れるのです。この中のどれかが、新しい文書を作るためのボタンになっています。分かりますか?これがタップ数を数えていない会社です。…やっぱり歌も欲しいですよね?

観客:やってやって!(笑)(拍手)

 ビルゲイツの歌です。(♪「歌の贈りもの」の節で)僕はずっとギークで最初のDOSを書いた♪IBMと一緒に僕のソフトを売ったけど、僕が利益を取って彼らは損失をかぶった(笑) 世界中が使うソフトを作ったんだから、ロイヤリティを取ってもいいよね♪くずみたいなところもあるけれど、メディアはだまされる♪コンピュータを買ったの?じゃあソフトを買いな♪

 ソフト会社はみんなMicrosoftのために研究開発している♪最近はいいアイデアを押さえておくことなんて出来やしない♪君たちはどこへも行けやしない♪ほめられたくてやってるんじゃない♪僕は今日の世界に合うソフトを作る、あらゆるところが月並みさ♪僕らは世界支配態勢に入った♪君たちに選択肢はない♪僕のソフトを買うんだ!僕はビルゲイツ♪このソフトを書いている(拍手)
 
 しかし、私はMicrosoftには2つの面があると思います。一つは、WindowsとOfficeを作っている古い方のMicrosoft。すべてを投げ出してはじめからやり直したいのに、あまりに多くのアドオンや他の会社のものが1982年の筐体に閉じ込められていてどうにもできないのです。

 一方で新しいMicrosoftというのもあって、こっちは素敵でシンプルなデザインです。私はMedia Center PCが好きでした。Microsoft SPOT Watchもです。このワイヤレス腕時計は市場では見事に失敗しましたが、それはデザインのせいではありません。携帯みたいに毎晩充電しなければならず、局番が違うところに行くと動かないくせに月10ドルも払わないといけないからです。

シンプルが遂に勝利した「iPod」

 複雑化はどんどん進行しています。どうにかできないのでしょうか?画面は小さくなり、マニュアルを読む人は減り、新しいものが次々に現れている。スティーブ・ジョブズが1997年に12年ぶりにAppleへ復帰したのはMac World Expoのときでした。黒のタートルネックとジーンズで現れた彼に、聴衆は大喜びしました。しかし、私はどこかで似た人を見たような気がしたのです。マドンナの映画「エビータ」を見たばかりだったからね(笑)

 スティーブ・ジョブズの歌もやらなきゃ不公平ですよね。(♪「アルゼンチンよ泣かないで」の節で)簡単じゃないだろう♪みんな私を変だと思っている♪Appleの未来は暗いと言った後になぜ戻ったのか、説明しようとしたけど信じないかも♪けどあなた方が目にしているのは、唯一の友であるウォズと夢をかなえようとした10代の子供だ(笑)

 私のために泣かないでクパチーノ(笑) 本当に君を捨てたことはないんだ(笑) 今やどうすればいいか分かる仕掛けが分かったPixarでは大儲けした(笑) 私のために泣かないでクパチーノ♪今でもやる気とビジョンはある、今もどんな天気だろうとサンダルを履いている♪今のはGUCCIの革製だけど(笑)(拍手)

 どうもありがとう。ジョブズは常にシンプル、エレガンス、そして美しさを信奉していました。正直言って、私はずっと失望していたんです。アメリカ人は明らかにそういったものに価値を置かなかったです。Windowsのシェア95パーセントに対し、Macはたったの3パーセント。そういったことに金を払う価値があると思われてなかったのです。

 しかし、私は間違っていました。iPodがあらゆる常識を覆したのです。他の製品はもっと安く、機能も豊富です。ボイスレコーダーやFMトランスミッター機能はiPodにはついていません。しかもApple製品は、Microsoftの規格に従っていません。それなのにみんなiPodを欲しがった!ここから分かるのは、シンプルなものは売れるということです。そして業界はそこから学んでいます。

やさしいものほど難しい

 シンプルさとエレガンスの点でとてもうまくやっている小さな会社があります。Sonos(編集者注:オーディオ機器を中心に作るアメリカの会社)なんかもすごく人気です。
 いくつか例をお見せしましょう。とにかくクールでエレガントで、よく考えられた製品なんですよ。みなさんはデジタルカメラの写真をどうやってパソコンに移しますか?大抵はUSBケーブルを引っ張り出してくるか、メモリカードリーダーを買ってくるかでしょう。どちらにしても面倒ですね。私は違います。メモリカードを取り出して半分に折ると、USBコネクタが出てくるんです。これをコンピュータに差し込んで写真を移したら元の形に戻します。これならケーブルもリーダーもなくならないでしょ?

 もう1つ例をお見せしましょう。皆のパワーの源であるクリス(編集者注:TEDの最高責任者兼司会者)にコンセント役をお願いしましょう。

クリス:ああ、いいよ。
 しっかり持って離さないで。これはAppleの新しいノートPCです。電源コードをたらしておきます。こんな風にやってしまったことありませんか。あるいはお子さんが足を引っかけて床に落としてしまったりとか。借りものなので私は気にしませんが(笑) 落とそうとしても…ほら!磁石になっているんです。ノートPCは床に落ちません(拍手)

 最後の例です。私は、多くの作業に音声認識ソフトを使います。このソフトは敏感なので、みなさんお静かに。音声認識ソフトは、メールを素早く書けて素晴らしいピリオド。「私は毎日何百通ものメールを受け取るピリオド これは単に私が口述したことを書き出すだけではないピリオド ボイスマクロという機能も使っているピリオド 修正『dissuade』を『notjust』に(画面にしゃべった言葉が表示される) ここはホールで、音が反響するのでやりにくいですね。短い言葉で長い文章が入力されるようにすれば、メールの返事を素早く書くことができます。

 誰かがファンレターをくれたとしましょう。私は「それはどうも」と言います。(「わざわざメールをくださって本当にありがとうございます。心のこもった文章にたいへん感銘を受けました」と表示される)。

 逆に、何か意地の悪いメールを受け取ったときは「ムカツク」と言います。(「歯に衣着せぬアドバイスをありがとう。あなたからの意見は大いに参考にさせて頂きます。しかし、私とあなたの間には見当の相違もございます。ですが、ご意見をくださったことには改めて感謝の意を表明いたします」と表示される)。これは私の秘密ですから、どうかご内密にお願いしますね(笑)

 これには面白い話があります。このソフトはバージョン8なんですが、バージョン8でどんな機能が付いたのでしょうか?実は、新機能はなし。ソフトウェアでかつてそんなことはありませんでした。彼らはこう言ったのです。「ソフトウェアが正しく動くようにします」と。このソフトの精度は95パーセント、つまり20語に1語は間違っていて、そのために使うのを辞めていたのです。この会社はそれを食い止めるために「このバージョンでは全く正確にする以外には何もしない」と言い、その通りにしたのです。

 物事を正しくやる信条が広がり始めています。だから、テクノロジーの消費者である人には、上手くいかなくてもそれはあなたのせいとは限らないと言いたい。製品のデザインが悪いのかもしれません。良いデザインと悪いデザインを見分けられるようになってください。

 そして、製品を作る側の人たちに言いたいのは「やさしいは難しい」ということです。タップ数の例のように、使う人のために細部に労力を払ってください。難しいのはどの機能を追加するかではありません。どれを落とすかです。そして何よりも、シンプルなものは売れるということです。どうもありがとうございました。

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