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新卒採用の時に企業が大学の成績を判断基準に入れない理由

Tobayashi

2014/03/18(最終更新日:2014/03/18)


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 新卒採用が本格化する時期になると、就活生はエントリーシートや面接の準備をするために慌ただしく動き始めます。それと同時に、企業の採用担当者も忙しい時期を迎えます。
 
 就活・採活でチェックすべきポイントは多々ありますが,その中であまり考慮されないのが「大学での成績」です。企業によっては,エントリー時に成績証明書の提出を求めないところすらあります。なぜ、大学で学ぶ学生を採用しようとするにも拘らず,その成果が考慮されないのでしょうか。

大学生に期待するのは大学での勉学ではない

 企業は新卒採用にあたり、一心に勉学に打ち込んできた学生を採用したいと考えているのでしょうか。残念なことに、必ずしもそうとは言えないと思います。むしろ、大学時代は「人間性を育む」「見聞を広める」といったことの方が重視されているのではないのでしょうか。

 多くの企業が採用過程で,特技やアピールポイント・学生時代に力を入れたことなどを質問する理由は、そうした姿勢の表れと言えます。そのような企業の採用方針は、一部の学生をして「就活のために」勉学そっちのけでサークルやボランティア活動などに走らせるという現象も生んでいます。

 それが良いか悪いか、またそうした学生が成功するかどうかは別として、企業の採用マインドとしてそうした考えがあるのは否定できません。このことが「いろいろな経験を積んでもらう分,勉学は犠牲になってもいい」という意識に変わり、採用における成績の軽視(または無視)に繋がっているのではないでしょうか。

学生によって学んだ内容の差異が激しい

 学生は大学も学部も異なるので、それぞれが異なる授業を受けています。そうなると当然、授業ごとに課題の量も質・成績評価のシビアさなども全く異なります。この結果、楽な授業ばかり履修した学生が優秀な成績を収め、学びを重視してシビアな講義・実習を履修した学生の成績が低迷することも十分にあり得ます。

 企業が採用したい学生は、一体どちらのタイプでしょうか。こうしたことを考慮すると、成績の良い学生を優先して採用する方針はむしろデメリットにもなりかねません。もっと言うならば、異なる大学・学部の学生同士を単純に成績の数値だけで比べることは果たして妥当でしょうか。「全員に同じ試験を課した方がよほど公平」という意見はもっともです。

 このように授業の質が教員によって全く異なるのは、教員の熱心さの違いが1つの原因と言えます。教員の採用・評価は研究業績で決まるのであって教育内容はほとんど考慮されないことを考えれば当然と言えますし、簡単に変えられることでもありません。教育内容は研究業績と異なり、目に見える指標(論文を何本発表したかなど)がないからです。また、現在の大学教員は研究や授業以外にも様々な雑務が多すぎます。

大学での学びと仕事内容との間に大きなギャップがある

 そもそも、大学で学んだことは企業での業務に直結するのでしょうか。多くの場合、答えはNoでしょう。専門学校と違って大学は学問の場と考えられており、業務に必要なことは入社後に企業が一から教え込むというのが日本の伝統的なサラリーマン育成システムです。

 近年は新入社員の教育に十分なリソースを割く余裕のない企業も増えてきており,大学にそうした機能の一部を期待する向きもあるようですが、逆に大学側には「大学は就職予備校ではない」という本音もあるそうです。

 このように、大学での学びと企業での業務が直結しない状況では大学での成績から入社後の成果(の期待値)を予測できるとは言えず、採用において大学での成績を考慮しない企業が多いのもうなずけます。「有名大学の学生の価値は,難関の大学入試を突破したことにある」などと言われることがあるのはこのあたりに原因がありそうです。

 結局のところ、企業が求める「大学」「大学生」の姿と、大学側の考える「あるべき大学の姿」が一致していないため、大学の基準でつけられた成績に価値が見いだされないのが、成績が採用時に考慮されない原因と言えそうです。

 しかしながら、一部には変化の兆しも見られます。近年は大学成績センターによる「大学成績データサービス」が提供され始めました。これは大学ごとに異なる授業評価や教員ごとの授業の質などの差を標準化して成績の信頼性を高め、企業に対して大学での成績を利用した採用活動を提案していくものです。

 企業が「成績もちゃんと見ますよ」というメッセージを送れば、大学も学生も変わっていくでしょう。大学の進む道と企業の求める役割、両者が完全に一致することはないかもしれません。しかしこうした動きが加速すれば、「社会における大学の価値」がより高まって若者が大学で学ぶ意味も大きくなるのではないでしょうか。

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