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商標の類似とパロディ商標

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2014/03/15(最終更新日:2014/03/15)


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 今回は、「 ベンチャーにおける商標の重要性」に続き、商標の第2弾として、商標の類似判断について、パロディ商標の話題を交えてご説明したいと思います。

<今回の内容>
1. 類似判断の考え方~どんな場合に類似になる?
2. パロディ商標~プーマ・シーサー事件

1. 類似判断の考え方~どんな場合に類似になる?

 既に登録されている他社商標と同一又は類似の商標を、その登録商標の指定商品・役務と同一又は類似の商品又は役務で使用することは、他社の商標権に対する侵害となります。また、そのような同一・類似商標を出願しても、登録できない商標として特許庁に拒絶されます(商標法第4条第11号)。

 どのような場合に「類似」になるかについて、特許庁の商標審査基準では、「商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察」するとされています。また、最高裁判例では「商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべき」とされています(最判昭43.2.27「氷山印事件」)。簡単にまとめると、外観(見た目)、称呼(読み方)、観念(意味)を判断要素としつつ、その一部の類否のみで判断せず、全体として商品出所の誤認混同が生じるかを判断するということになります。

 概念だけではイメージが沸かないと思いますので、過去の特許庁での類否判断の具体例をいくつかご紹介します。左側が(右側に似ているとして)問題とされた商標です。

<ケース①>類似(主に外観の点)
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<ケース②>非類似(主に称呼の点)
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<ケース③>類似(主に称呼の点)
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<ケース④>類似(主に観念の点)
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 皆さんの類似非類似の感覚と比べていかがでしょうか。個々の事例の結論だけみると、場当たり的に主観で判断されているように感じられることもあるかも知れませんが、事例ごとに上記の判断基準に基づいて判断されています。指定商品・役務も判断に影響するものであり、上記のアトムの例は指定商品が「かばん類」であり、アトムには「原子」の意味もあるものの、かばん商品の一般消費財としての性質に鑑みて「鉄腕アトム」を想起させるという判断で、類似の結論となっています。

 もっとも、類似判断の基準自体、それ程明確なものではないため、出願を審査する特許庁の担当官の感覚や、判断される時期によって同じ事案でも結論が異なる可能性も否定できない面はあります。そのため、類似商標を理由とする特許庁の登録又は拒絶の判断に対しては、不服審判、登録異議、無効審判といった特許庁に対する不服申立の制度があり、特許庁の判断に不服があれば最終的に裁判所で争うことが可能となっています。

2. パロディ商標~プーマ・シーサー事件

 商標の類似と絡んで、いわゆるパロディ商標の問題で有名となった事件があります。特許庁の判断が、裁判所で2回にわたって覆された事件としても有名です(知財高裁平21.2.10、平22.7.12)。
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 左の「シーサー」の商標は、プーマの商標に類似しているでしょうか?裁判所の結論は、「非類似」です。「プーマ」「ピューマ」と「シーサー」は称呼が異なり、ピューマ(実在の動物)とシーサー(架空動物の獅子の像)とは観念も異なり、外観も類似するとはいえないと判断されました。

 でもパクリなのでは…と感じる方も多いと思います。商標法第4条第1項第15号は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生じるおそれがある商標」は登録できないと規定しており、本件でもこれに該当するかが争点になりましたが、この点についても裁判所は商標が類似しておらず、商品需要者が一定程度共通する等の事情を勘案しても、両者が同グループあるいは営業上の提携関係にあると誤信されるおそれはないとして、プーマ側の主張を斥けました。

 プーマ側は、シーサーの商標は「パロディ」であり、プーマの信用にフリーライドするものである旨主張しましたが、裁判所は、「パロディ」という商標法上の概念はないのであって、あくまで上記第4条第1項第15号に該当するか否かを判断すべきであるとしました。ただ裁判所は傍論的に、「必ずしもプーマの商標をフリーライドするものとも、希釈化するものともいえない」と判示しており、「パロディ」として目くじらを立てる程の案件ではないという価値判断もあったように見受けられます(ただしこの裁判所の判断には異論も多いようです。)。似たような例として、以下のような商標も出願されています。
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 これに対して特許庁は、大要「他人の周知・著名商標の名声に便乗し、その顧客吸引力にフリーライドするものといえ、これは、公正な取引秩序を乱すおそれがあるばかりでなく、国際信義に反するものであって、公の秩序を害するおそれがあるものといわなければならない。」として、商標法第4条第1項第7号(=公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標)を適用して、登録を拒絶しています。上記裁判例で15号の適用が否定されていることも踏まえ、パロディ商標に対して同項7号を理由に登録を拒絶する傾向となっているようですが、今後については事例の蓄積を待つことになります。

 商標の類似非類似、パロディやフリーライドについては、商標法上の問題だけでなく、不正競争防止法や民法上の不法行為なども関係してきます。この種のトラブルに遭遇した場合は、弁護士や弁理士に諸法令を踏まえた適切な対応の仕方を相談されるのが良いと思います。


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