1. 自分でもできる?売掛金の回収手続

自分でもできる?売掛金の回収手続


 自社の商品やサービスを提供する場合、一般的には、商品等を提供した後に後払いでその対価の支払を受けることが多いと思います。

 せっかく苦労して販売した商品等ですが、ときどき、その対価を回収できないケースがあります。もちろん、われわれ弁護士にとっては債権回収も重要な職務ですが、弁護士に依頼するとなると費用もかかりますので、売掛債権額がそれほど大きくない場合など、弁護士に依頼しにくいときもあります。

 そこで、今回は、売掛金を回収する手続(特に裁判所を利用した手続)について概観し、皆さんがご自身で回収する際の参考にしていただきたいと思います。

1. 裁判所を利用しない手続~内容証明郵便~

 弁護士が売掛金回収の相談をされた場合、最初に行うようアドバイスするのが内容証明郵便で催告することです。

 内容証明郵便とは、「いつ、どのような内容の文書を誰から誰に出したかということを、差出人が作成した謄本によって日本郵便株式会社が証明する制度」です。第三者による証明が得られるため、契約の解除通知など、法的効果を生じる意思表示の手段として使われたり、送付した内容証明郵便を後から裁判の証拠にすることもよくあります。

メリット
 ・数千円の費用で作成することができ、コストが低い。
 ・内容証明郵便を送付することで相手方もプレッシャーを感じ、協議の端緒となることも多い。
 ・請求債権の消滅時効の完成を6か月遅らせることのできる催告(民法第153条)としての効果がある。

デメリット
 ・使用可能文字や文字数や行数等、文書の作成に多少のルールがあり、添付資料を合わせて送付することができない。
 ・強制力のあるものではないため、紛争に慣れている相手方からは無視されてしまうこともある。

注意点
 ・効果的な内容証明郵便を作成するためには、請求する債権の内容(発生原因、日時、金額、約定利息、支払方法等)及び契約の解除その他の法的効力の内容をしっかり特定する必要がある。

※詳しくはこちらのサイト参照

2. 裁判所を利用した手続

 内容証明郵便で督促をしても売掛金を支払ってくれない販売先に対する次の手続としては、裁判所を利用した以下の手続を行うことをアドバイスするのが通常です。

(1)支払督促

 支払督促は、債権者の申立てにより裁判所が支払督促を発する手続です。裁判所は、形式的な要件さえ整っていれば、原則として申立て内容の真偽を審査せず、督促命令を出してくれます。裁判所からの通知に対し、債務者が異議の申立てをしなければ手続は終了し、債権者は強制執行の申立てをすることができます。

メリット
 ・申立てる際の債権額に制限はなく、概ね1ヶ月半から2ヶ月くらいで手続が終わり、手数料は訴訟の場合の半額。
 ・訴訟と違って書類審査のみで、裁判所に行く必要がない、簡易迅速な手続。

デメリット
 ・相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てなければならない。
 ・債務者が異議を申し立てると(異議には法律的な主張は不要のため、債務者が時間稼ぎのために異議を出す場合もある。)、その住所地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所の訴訟に移行してしまい、それが遠方である場合には、債権者は裁判所に行かなければならないことになる(これを回避するには、支払督促の申立て自体を取下げ、別途訴訟を提起する必要がある。)。

有効な場面
 ・相手方との間に債権について特段の争いがない可能性が高い場合
 ・相手方が何らの対応をしないことが予想される場合

※詳しくはこちらのサイト参照

(2)調停

 内容証明郵便による催告には応じなくとも、裁判所からの呼び出しがあった場合に無視できる人は少ないと思われます。したがって、調停の申立てにより、裁判所という第三者を介した話合いのテーブルを設定することが可能となり、紛争が解決できるときもあります。

 調停は、一般市民から選ばれた調停委員が加わる調停委員会が当事者の言い分を聴き、必要があれば事実も調べ、法律的な評価をもとに条理に基づいて当事者双方に歩み寄りを促し、当事者の合意によって実情に沿った解決を図る手続です。

メリット
 ・訴訟ほどには手続が厳格ではないため、だれでも簡単に利用でき、当事者は法律的な制約にとらわれず自由に言い分を述べることができる。
 ・裁判所という第三者を介した話合いのテーブルを設定することができる。
 ・調停調書は確定判決と同様の効力を持ち、相手方が調停調書に記載された合意内容を履行しないときには、債権者は強制執行を申立てることもできる。
 ・申立手数料(貼用印紙代)は訴訟の半額。
 ・申立書も訴状よりも簡便でよいので書きやすく(雛型は裁判所ウェブサイトからダウンロードすることもできる。)、弁護士に依頼しなくても利用しやすい手続。

デメリット
 ・申立先が、原則として、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所になる。
 ・訴訟と異なり、出頭しなくても、特段のペナルティがなく、慣れている相手方からは無視される可能性がある。
 ・相手方との合意が成立しない場合は裁判所から何らの判断もなされず、調停不成立となってしまう。

有効な場面
・話し合いによる解決が望ましい場合

※詳しくはこちらのサイト参照

(3)少額訴訟

 訴訟は一般的にコストと時間がかなりかかるので、金額の小さな案件で通常の訴訟対応をするとコスト倒れになってしまう可能性があります。そのようなケースのために、少額訴訟という制度があります。これは、60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて、原則として1回の審理で紛争解決を図る特別な手続です。少額訴訟判決に対する不服申立ては異議の申立てに限られ、控訴はできません。

メリット
 ・判決書又は和解調書に基づき、強制執行を申し立てることができる。
 ・簡易裁判所で行われる手続であり、従業員が訴訟代理人となることができる。

デメリット
 ・提訴可能な債権額の上限が60万円である。
 ・取調べられる証拠書類や証人は、1回の審理の日にその場ですぐに調べることができるものに限られる。
 ・1年の間に利用できる回数に制限(10回)がある。
 ・被告が通常訴訟手続に移行させる旨の申述をした場合、通常訴訟手続に移行してしまう。

有効な場面
 ・債権額が60万円以下で、契約書や受発注書、納品書等、証拠書類が揃っていて立証が容易な場合

※詳しくはこちらのサイト参照

3. 上記各手続と並行して行う手続~仮差押~

 上記のような裁判所を利用した手続によって回収手続を進めたとしても、相手方にお金がないなどの理由で任意の支払をしてくれないために実際に回収できないこともよくあります。そこで、仮差押を行うか否かも回収の際に検討しておくべきです。

 仮差押とは、簡単に言えば、相手方に対する回収に備えて、事前に財産を保全しておくための、裁判所を利用した手続です。仮差押の対象は不動産や金融機関の預金債権、売掛金などであることが多く、裁判所の発令によって債務者による処分を禁止し、債務者名義の財産を保全し、その後の債権者による回収を容易にすることができます。例えば、銀行預金債権を仮差押する場合は、相手方名義の口座のある金融機関名及び支店名まで特定しなければなりませんが、口座番号の情報は不要です。仮差押はご自身でやるのは難しいかもしれませんが、債権回収においては重要ですので、念のため、解説しています。

メリット
・裁判の結果を待たずに相手方の財産の保全ができ、将来、勝訴判決を得た場合にそこから回収することができる。
 ・相手方に対するプレッシャーとなり、話し合いによる解決を促進する場合がある。

デメリット
 ・被保全権利及び保全の必要性を明らかにしたうえでその存在を疎明しなければならない。
 ・被保全権利の2~3割程度の担保を立てなければならない。
 ・仮差押え命令が発令されたとしても、空振りに終わる可能性もある。
 ・一度供託した担保金を取り戻すためには法定の手続が必要となり、手続終了まで取り戻すことができない。
 ・仮差押命令の発令後、本案訴訟で敗訴した場合などに、債権者が債務者に対して損害賠償義務を負う場合がある。

4. おわりに

 以上、裁判所を利用した手続を中心に、売掛金の回収手続を概観してきました。もちろん、これを読んだだけで全ての手続を自分で行うのは難しいかもしれません。しかし、このブログにより、起業家の皆様に複数の選択可能な手続を知っていただき、その中から個別の案件で適切なものを選択するための一助になれば幸いです。

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