古くから日本人の心に宿ってきた「おもてなし」。オリンピック誘致のためのIOC総会でのプレゼンテーションで用いられたことや、2013年のユーキャン流行語大賞ノミネートでも話題になりました。
今回は、日本人として心得ておくべき「おもてなし」の語源と意味、3つの「おもてなしの精神」を詳しくご紹介します。
本記事のまとめ
- おもてなしの意味は、「もてなしの丁寧語」と「表裏なし」
- おもてなしの心を身に付けるためには、3つの心得がある
- ビジネスシーンでのおもてなしとは
そもそも「おもてなし」とは?
「おもてなし精神に溢れた旅館」「おもてなしの心を持って、お客様をお迎えする」など、さまざまなシーンで用いられる「おもてなし」という言葉。
よく使う言葉ではあるものの、詳しい意味や語源までは分かっていない方も多いのではないでしょうか。
まずは、おもてなしの意味や語源から詳しく解説します。本来の意味をしっかり知ったうえで、正しい使い方を学んでいきましょう。
おもてなしの意味1.「もてなす」の丁寧語
おもてなしは言葉のとおり、動詞「もてなす」の丁寧語が由来しています。この、おもてなしの元となる言葉「もてなす」の語源は「モノを持って成し遂げる」からきており、お客様に応対する際の扱いや待遇のことを指しています。
なお、もてなしの語源のなかにある「モノ」は、目に見える物体と目に見えない事象の2つを示す言葉です。
おもてなしの意味2.「表裏なし」
相手によって態度を変えず、嘘偽りのない気持ちで接する人を「彼(彼女)は、表裏のない人だ」と言うことも多いですよね。「表裏がない」は真心をこめてお客様を迎えるという意味で、現代でも一般的に使われている言葉です。
おもてなしには、前述した「もてなすの丁寧語」に加えて、「表裏なし」という意味も込められています。言動と内心に食い違いがなく、心のままに相手を思いやる気持ちが、おもてなしなのです。
「おもてなし」の語源
「おもてなし」は、平安時代や室町時代にうまれて文化として発展した、「茶の湯」から始まったと言われています。
茶の湯は、お客様を迎いて抹茶をたてて楽しむ文化で、特別な作法や場が必要となります。茶の湯で求められる正しいふるまい・態度・待遇などが、おもてなしの語源なのです。
ちなみに、茶道の世界でもっとも有名な千利休は「利休七則」におもてなしの7ヵ条をまとめています。
七則には「降らずとも傘の用意(すべての人の憂いを想定して、備えておく)」「夏は涼しく冬暖かに(心地よい状況を作り出す)」「茶は服のよきように点て(相手が飲みやすいよう、適温と適量を守る)」「相客に心せよ(その場にいる客人全員が心地よく過ごせるように、主催する亭主は最大限気を配る)」など、客人を迎え入れる際の心構えが記載されています。
すべての来客や接客を「一期一会」ととらえ、万全の準備と最高の空間を提供することが、茶の湯から生まれたおもてなしの精神なのです。
「おもてなし」とマナー・サービス・ホスピタリティ・接遇の違いとは?
「おもてなし」と似た意味を持つ言葉に、マナー・サービス・ホスピタリティ・接遇の4つのフレーズが挙げられます。しかし、これらは違った意味を持つ言葉であり、正しい使い方もそれぞれ異なるのです。
次は、マナー・サービス・ホスピタリティ・接遇の意味や「おもてなし」との違いについて詳しく確認しましょう。
マナーとは?
マナーは、英語の「manners」をカタカナ読みした言葉で、日本語では行儀・作法・礼儀・態度を意味します。mannersはラテン語で手を意味する「manus(マヌス)」から生まれた言葉で、「相手を不快な気持ちをさせないための最低限のルール 」というニュアンスを含みます。
日本では、社会的に守った方がいい一般的なルールや規則を指す言葉としても用いられています。
<「マナー」の言葉の使い方や例文>
- テーブルマナー
- マナー教室
- 「インフルエンザや風邪のときには、外出時にマスクをつけるのがマナーです」
- 「交通マナーを守って、安全に運転しましょう」
サービスとは?
サービスは、英語の「service」をカタカナ読みした言葉で、日本語では奉仕・仕える・従事という意味をもっています。serviceはラテン語の「servitus(セルヴィタス)」から生まれた言葉で、奴隷を意味する言葉です。
日本ではサービスを受ける側のお客様を主体として使われ、「お客様に接客してサービスを提供する」という意味合いを持ちます。
<「サービス」の言葉のの使い方や例文>
- 無料サービス
- 出張サービス
- 「サービス精神を持って、接客する」
ホスピタリティとは?
ホスピタリティは、英語の「hospitality」をカタカナ読みした言葉で、日本語では思いやり・手厚い接待・心遣いという意味を持っています。hospitalityはラテン語の「hospes(ホスピス)」「hospics(保護する)」から生まれた言葉で、もてなしの心を意味する言葉です。
日本でも「もてなしの心」を指す言葉として用いられており、相手やお客様にとって最大限心地よいサービスを提供するという意味合いを持ちます。
<「ホスピタリティ」の言葉の使い方や例文>
- 「ホスピタリティに溢れた雰囲気が自慢のカフェ」
- 「ホスピタリティマインドを持って仕事に向き合う」
接遇とは?
接遇は「お客様や相手をもてなすこと」を意味する言葉で、公務員・会社員・医者など、業務上のお客様に対するサービスのこと。もてなし方・表情・立ち居振る舞い・言葉遣いを含む広い意味で用いられ、相手に寄り添いながら高いサービスを提供する接客技術を指します。
<「接遇」の言葉の使い方や例文>
- 接遇用語
- 接遇マナー
- 接遇研修
おもてなしをする3つの心得え
ワンランク上のサービスを提供するためにも、常におもてなしの気持ちを持っておきたいもの。相手におもてなしをする際には、知っておくべき3つの心得があるのをご存じでしょうか。
次は、おもてなしをする際の3つの心得をご紹介します。おもてなしに込められた意味や心得を知って、自分をアップデートしていきましょう。
ポイント1.想定外の気遣いをする
おもてなしは、相手の想定を超える気遣いや心遣いによって生まれるものです。例えば、旅館に宿泊した際にスタッフが布団を敷いてくれたとき、多くの人は「サービス」だと感じますよね。しかし、敷かれた布団のそばに湯たんぽや温かな言葉が記された手紙が置かれていたら、どう感じるでしょうか。きっと旅館やスタッフからの「おもてなし」の気持ちを感じるはずです。
上記の例のように、一般的に想定される言動は「サービス」となり、想定を超える気遣いがあった場合は「おもてなし」となります。より良いサービスを提供したい場合には、相手の心に秘める期待を良い意味で裏切るような気遣いをすることが重要なのです。
想定外の気遣いには「なにをしたら喜ぶのか」「自分になにができるのか」と、相手を慮る気持ちが求められます。相手の目線で物事を考えながら、上質な気遣いのできる大人を目指していきましょう。
ポイント2.見返りを求めない
海外旅行や出張時に、レストランやホテルで「チップ」を渡した経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。チップは、外国で一般的な習慣のひとつで、接客サービスを受けたときに感謝の意味を込めて支払うものです。もちろんあくまで任意のサービス料ですが、多くの国や施設ではマナーとして捉えられています。
では、なぜ日本にはチップを渡す習慣がないのでしょうか。
日本でチップを渡す文化がないのは、日本人の心に「おもてなし」の気持ちが宿っているためです。日本では、なにかサービスや心遣いをした場合にも見返りを求めず、相手を丁寧に敬うことが重要だとされています。
また、見返りを求めない精神は、接客業やビジネスシーンに限ったことではなく、日常生活においても同様です。
ポイント3.「考える時間」をつくる
言葉の意味や接し方を学んだからといって、一朝一夕で相手への「おもてなし」の精神を身に付けることはできません。おもてなしを身に付けるためには、自分自身と対話をしながら、相手の気持ちを考える時間を持つことが重要なのです。
相手のことを敬い、慮るためには、自分の心に余裕を生み出す必要があります。毎日時間に追われながら、自分の仕事に精一杯の状態では、相手を思いやる気持ちを持つのは難しいもの。忙しいときほど、一旦落ち着いてゆっくりと物思いに耽る時間を持つようにしましょう。
スマートフォンやインターネットの普及によって、現代はいつどこにいても仕事をできる環境が整っています。しかし、ときにはパソコンやスマートフォンの電源をオフにして、自分自身の心を見つめ直す時間を持つように意識してみましょう。
<「考える時間」を作るために、おすすめの方法>
- 日記をつけて、日々の出来事を振り返る
- 瞑想やマインドフルネスで、頭の中をリセットする
- スマートフォンやパソコンから離れて、情報を短時間シャットダウンする
ビジネスにおける「おもてなし」とはどういうこと?
相手を思いやる気持ちには、コミュニケーションを円滑に進める効果もあります。そのため、ビジネスシーンにおいても「おもてなし」の心を持つことは非常に重要になってくるのです。
では、ビジネスシーンでは、どのように「おもてなし」を意識すればよいのでしょうか。
一人ひとりにあわせた対応をすること
仕事のスピードやキャパシティーは、人それぞれ大きく異なるもの。相手の立場に立って仕事を行うためには、一人ひとりに合わせた対応を行うように心掛けていきましょう。
相手に合わせた対応をするためには、日ごろから会話を重ね、仕事に対するヒアリングを行うことが重要です。管理職やマネジメントを行っている方こそ、おもてなしの心が求められるのです。
相手の期待を上回る気配り、心配りをすること
本記事でご紹介したように、「おもてなし」には相手の期待を上回る心遣いや心配りが必要です。ビジネスシーンでも相手の視点に立った心配りを意識して、ワンランク上の対応を心掛けていきましょう。
<ビジネスシーンでの相手を思いやる心配り例>
- トラブルによってキャパオーバーしている同僚に、「〇〇の案件は以前担当していたから、手伝えるよ!」と声をかける
- 遅くまで仕事をしているチームメンバーに「おつかれさま」と声をかける
- 頼まれた仕事にプラスアルファを工夫をして完了させる
ほんの少しの気遣いや心配りが、相手にとっては大きな喜びに繋がることもしばしば。「どう接したら相手が喜んでくれる?」「相手のために自分はなにをしてあげるべき?」と自問自答しながら、相手の期待を超える気配りをしていきましょう。
相手の心によりそったサービスを提供すること
相手の立場にたって物事を考えられる人が周囲の友人や恋人に愛されるように、ビジネスシーンでも相手の心に寄り添える人は成長していけるもの。常に、相手の心に寄り添ったサービスを提供することによって、相手に「おもてなし」の気持ちを伝えていきましょう。
相手の心に寄り添ったサービスを提供するためには、相手への理解や敬いの気持ちを積極的に伝える必要があります。些細な言葉や行動によって、ビジネスシーンでの相手との信頼関係をしっかり構築していきましょう。
<相手の心に寄り添ったサービスの提供例>
- 雨のなか来店したお客様に「お足元が悪い中、ご来店いただきありがとうございます。」と伝える
- 「現在在庫がございませんが、〇日には入荷予定です。入荷されましたら、ご報告のお電話をしましょうか?」と提案する
自然と「おもてなし」ができるようになるために
- おもてなしは、相手に想定外の心遣いを提供すること
- おもてなしのために、時間の余白や「考える時間」を持とう
- 相手の心に寄り添った対応で相手との信頼関係を築く
- ビジネスシーンでは、相手を思いやった対応が必要
古くから日本人の心に宿ってきた「おもてなし」の精神は、相手を思いある気持ちから生まれたものです。
ビジネスシーンのおもてなしには、相手の視点に立った質の高いサービスを提供しやすくなるメリットがあります。ビジネススキル向上のためにも、相手の心に寄り添う習慣を身に付けていきましょう。
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